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第75回 PSAグループのクリーンディーゼルと308 SW Allure Blue HDi
2016.8.27

欧州は乗用車のディーゼル比率が4割を超える市場で、中でもフランスは約6割がディーゼルエンジン車だ。日本とは大違いだ。プジョーは1958年に1.8Lディーゼルを403に投入、近年ではフランス市場向けはディーゼルを主流とし、2013年からは欧州の新排出ガス規制ユーロ6の導入に先駆けてクリーンディーゼル「Blue HDiテクノロジー」を導入した。Blue HDiの累計生産はすでに100万台を突破、去る7月初旬プジョー・シトロエン(PSA)グループが2.0Lと1.6LのBlue HDiを国内市場向けの9車種に投入するという発表を行った。そのエンジンを搭載したプジョーの試乗会が御殿場で開催され、308GT Blue HDi、508GT Blue HDi、308 SW Allure Blue HDiに試乗することができたが、今回はその中で最も好印象をもったプジョー308 SW Allure Blue HDiを中心にご紹介したい。

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時代をさかのぼるとディーゼルエンジンは、うるさく、走りが悪く、排気ガスが汚いというイメージだったが、欧州を中心に発展してきた近年のクリーンディーゼルは違う。コモンレールと電子制御による精密な燃料直噴、ターボによる過給、更には排気ガス制御の進化などにより、性能、ノイズ、燃費、ドライバビリティが大幅に改善され、非常に魅力的な選択肢になっている。欧州メーカーのクリーンディーゼルへの注力は半端ではないが、日本ではかつての石原都知事のパーフォーマンスがまだ人々の脳裏に残っているためか、ディーゼル比率が2%にも及ばないのが現状で、マツダを除くとクリーンディーゼルに挑戦しているメーカーがほとんど見られないが、果たしてこれでよいのだろうか?もっとも今後一段とCO2規制が強化されてゆく中で、ガソリン、ディーゼル、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVなどがどのようなすみ分けとなってゆくかは予測が難しいところだが。

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Blue HDiというエンジンは?
ここでこのたび日本市場にむけて導入されることになったPSAのクリーンディーゼルBlue HDiの特徴に少しふれておこう。まず排気量が2.0Lと1.6Lの2種類あるが、2.0Lは鋳鉄ブロックで後方排気、1.6Lはアルミブロックで前方排気であることをはじめボアxストロークも異なる。ただしいずれも4気筒のコモンレール式高圧噴射システムをもつ可変ジオメトリーターボ(ターボチャージャーのタービン側に装着したノズルベーンを制御することで最適な過給圧を発生させることが出来る)ディーゼルで、有害物質を3段階で除去する独自のクリーンテクノロジーを備え、ユーロ6や、日本のポスト新長期規制をクリアーしている。排気系統に組み込まれるそのクリーンテクノロジーは、
1. 排気ポートのすぐ後ろに装着されHCとCOを除去するための酸化触媒
2. 尿素水溶液(AdBlue)を噴射し光化学スモッグの原因となる窒素酸化物(NOx)を除去する選択還元触媒(SCR)
3. その直後に配置された粒子状物質(PM)を除去する微粒子フィルター(DPF)
から成り立っている。
PSAによれば、一番の特色はDPFの上流にSCRを配置したことで、これによりエンジン始動直後(低温時)からの迅速なNOx除去が可能となるとともに、DPFの効果も高めているとのこと。ちなみに容量17Lの尿素水溶液のタンクはトランクルーム下にあり、1年、または10,000kmを目安に販売店での補給(満タンで6000円前後とのこと)を推奨している。

2.0Lエンジンは、出力180ps(133kW)/3,750rpm、トルク400Nm/ 2,000rpmを発揮する高性能エンジンで、このエンジンを搭載する508 & 308シリーズにはいずれもGTの名称がつく。一方の1.6Lエンジンは出力120ps(88kW)と数値を見る限りは高性能とはいえないが、300Nmの最高トルクが1,750rpmで得られることも含めて一般走行時の走りは非常に良好で、経済性と動力性能を兼ね備えたモデルだ。(308 Allure & 308 SW Allure)。モード燃費(JC08)は、2.0Lエンジン搭載の508が18.0km/L、308 GT、308 SW GT はともに20.1km/L、1.6Lエンジン搭載の308 Allure、308 SW Allure はともに21.0km/Lだ。(ちなみにマツダの1.5L ディーゼルエンジンの性能は、出力が105ps(77kW)/4,000rpm、トルクは270Nm/ 1,600~2,500rpm)

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308 SW Allure Blue HDi
冒頭で述べたように、今回は308GT Blue HDi、508GT Blue HDi、308 SW Allure Blue HDiの3機種に試乗することができたが、以下はこの中で総合的に最も好印象をもった308 SW Allure Blue HDiの試乗印象記だ。

まず308 SW Allure Blue HDiの車体サイズに触れておこう。一言でいえばゴルフヴァリアント(ゴルフのステーションワゴン)に非常に近く、308の方が、全長が10mm、全幅が5mm長く、全高は10mm低い。ホイールベースは308が95mm長く、重量は100kg重い。室内居住性、荷室の広さなどは両モデルともファミリーユースとしては全く不足ないもので、アテンザワゴンではちょっと大きすぎると思う人たちにとっては歓迎されそうなモデルだ。興味深いのはエンジン特性で、出力はゴルフの105psに対して120psとそれほど高くはないが、最高トルクがゴルフの175Nmに対してプジョーは300Nmと大幅に勝る。モード燃費は両車ともに21km/Lだが、実用燃費がどのように異なるかは非常に興味深く、遠からず是非実用燃費を比較してみたい。車両本体価格は308が\3,238,000なのに対してゴルフヴァリアントのベースモデルは\2,949,000だが、エコカー減税は308の方が有利だ。尚308の5ドアハッチバックの車両本体価格がこのクラスの輸入ディーゼルモデルとして初めて300万円を切っているのはPSAグループのクリーンディーゼルの国内市場にかける情熱といえそうだ。

内外装デザイン
外観は、ボンネットからフロントウィンドーにつながる流麗なライン、フルLEDのヘッドライトユニット、プジョーのアイデンティティーともいえるテールライトなど一目でプジョーと分かる、なかなか魅力的な造形だ。一方の内装デザインは、小径ステアリングホイール上方からメーターを視認するレイアウトも含めて総じて上質なデザインになっている。ただしタコメーター、スピードメーターの位置が208とは左右逆になり、タコメーターの回転方向も左回りになったのは何故だろうか? 一度是非開発者の声を聴いてみたいところだ。スポーツモードに切り替えるとメーターが赤色に変わるのもいい。ただし視線移動が少ないとはいえ、個人的にはこのメーター配置とメーターサイズがやや小さすぎるのにはなかなかなじめない。フランス車の強みでもあるシートは前後とも、見栄え、着座感、ホールド性ともに大変すぐれたもので、多くの国産車で批判してきたワインディング走行時の後席のホールド性も非常に良好だ。パドルシフトのレバーがステアリングコラム固定式になっていて、ステアリングと一緒に回らないのは箱根などのワインディング走行時などでは大変使いやすい。

走り
このクルマはとにかく運転することが楽しい。車重はゴルフヴァリアントより100kg重いが、1,750rpmで300Nmに達するトルクも貢献、市街地走行、高速走行、登坂路などの広範囲な領域で大変満足のゆく動力性能を発揮してくれる。アイシンとの共同開発という、ロックアップ領域が広く、シフトスピードが早く、ディーゼル用に再検討された6速ATも非常に気持ちよい。VWのDSGのように発進時のアクセル操作に神経を使わなくていいのもうれしい。アイドリングストップからの再始動が非常に速いのはオルタネーター式ストップ&スタートという、オルタネーターとスターターを兼用してエンジンをベルト駆動してスタートするもので、スズキのSエネチャージと同一の方式だ。

ステアリング・ハンドリング・ブレーキング
このモデルの魅力は動力性能だけではない。タイヤは205/55R16という控えめなサイズだが、コーナリング性能に不足はなく、ステアリング操作に対するクルマの動きが非常にリニアでコーナリングを含む一般走行が実に気持ち良い。ロードノイズも非常に静かだ。見栄え重視で大径タイヤをはくオーバーサイズタイヤシンドロームに繰り返し警鐘を鳴らしている私としては、このモデルのタイヤサイズが16インチに抑えていることを高く評価したい。コーナリング性能が十分で、日常走行時の乗り心地が良く、ロードノイズも低く、代替えタイヤのコストも安く収まるからであり、日本メーカーにも是非参考にしてほしいポイントだ。308でもGTは18インチタイヤだが、低速市街地走行時のタイヤからの突き上げが若干気になることからも、16インチで十分という思いを強くした。

振動・騒音・乗り心地
この領域でまずご報告したいのは、あらゆる走行条件下で非常にしなやかで快適な乗り心地を提供してくれる点だ。要因の一つが308のために開発された専用のプラットフォームであることは間違いない。軽量化(-70kg)と低重心化(-20mm)、高張力鋼板、複合素材、アルミなどの適材適所活用、更にはエンジンやサスペンションとの結合部の最適化などが盛り込まれている。タイヤサイズの選択、サスペンションセッティングも大きく貢献しているはずだ。

騒音面ではまずディーゼルノイズが非常に静かなことを挙げたい。アイドリングでこそディーゼルサウンドが聞こえるが、いったん走り始めると全くといっていいほど気にならない。マツダのSKYACTIVといいとこ勝負か? 加えて前述のようにロードノイズが低いのもうれしい。センターコンソール上のスイッチをスポーツモードに切り替えると、メーターのバックライトがレッドとなり、アクセルレスポンスとシフトレスポンス、更にはステアリングがよりダイレクトなフィールに切り替わり、オーディオスピーカーからは増幅されたエンジン音が流れるというシステムが標準装備だが、クルマ好きにとってはなかなかうれしい仕掛けだ。

一言でいえば
プジョー308 SW Allure Blue HDiを一言いえば、スポーティーな走りも可能なファミリーワゴンで、クルマ好きのお父さんからは間違いなく高い評価を得られる上に、スタイル、使い勝手、快適性、経済性などを含めて一家を挙げて歓迎してもらえるクルマとみて間違いないだろう。バリューフォーマネーという視点からも非常に魅力的だ。今回国内市場に9車種も導入されることになったPSAのクリーンディーゼル車は、プジョー・シトロエングループの日本における販売台数拡大はもちろん、日本市場におけるクリーンディーゼルの市民権拡大に大きく貢献するはずだ。

試乗車グレード プジョー308 SW Allure Blue HDi
・全長 4,585 mm
・全幅 1,805 mm
・全高 1,475 mm
・ホイールベース 2,730 mm
・車両重量 1,400 kg(パノラミックガラスルーフ装着は1,420kg)
・エンジン 直列4気筒DOHCターボチャージャー付きディーゼル
・排気量 1,560cc
・圧縮比 17.0
・最高出力 120ps(88kW)/3,500
・最大トルク 300Nm/ 1,750rpm
・駆動方式 FF
・変速機 6速AT
・タイヤ 205/55R16
・タンク容量 52L
・JC08モード燃費 21.0 km/L
・試乗車車両本体価格 3,280,000円(消費税込)

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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