三樹書房
トップページヘ
catalog
第44回 1950年代オールズモビルのドリームカー
2016.3.28

 GMは戦前から独自の巡回モーターショーを展開し、新型車あるいは近未来の新しい技術などを紹介してきたが、戦後になると、毎年のように各ディビジョンからドリームカー(いまではコンセプトカーと称する)を登場させ、新しいデザインあるいは仕掛けに対する市場の反応を探ったり、ディーラーのショールームへ人々を誘導する媚薬の役目を持たせるようになった。既に1950年代のキャディラックおよびビュイックのドリームカーを紹介してきたが、今回はGMの中堅を担うオールズモビルについて紹介する。

05-44-01.jpg

05-44-02.jpg

上の2点は1953年のGMモトラマに登場したあと、458台が限定販売されたセミカスタムモデルのオールズモビル 98 フィエスタ(Fiesta)。1953年型98シリーズをベースに「パノラミック」ラップアラウンドウインドシールドを、量産モデルより1年先行して装着したのが最大の特徴。全高は量産モデルより2.5in(64mm)低く、トランクリッド中央にクロームのモールディングと後端に「Fiesta」のオーナメントが付く。写真では分かりにくいが、リアフェンダー上部から後部にかけてはブラックのツートン塗装が施されている。303cid(4965cc)"ロケット V-8"エンジンは量産モデルより5馬力強力な170馬力を積む。ハイドラマチックAT、パワーステアリング、パワーブレーキ、パワーシート、パワーウインドーなどを標準装備し、価格は5715ドルで、量産型98コンバーティブル2963ドルのほぼ2倍であった。オールズモビルは1953年型から12ボルトの電気システムを採用した。写真はGMヘリティッジセンターで撮影したもの。

05-44-03.jpg

05-44-04.jpg

上の2点は1953年GMモトラマに登場したオールズモビル スターファイア "X-P ロケット"。シボレー コルベットをストレッチしたような性格のモデルで、ホイールベース122in(3099mm)のシャシーにファイバーグラス製ボディーを架装した6人乗りのクルマ。エンジンは98シリーズの303cid"ロケット V-8"の圧縮比を8.3:1⇒9.0:1に上げ、更に手を加えて35馬力アップの200馬力を発生する。デザインはオールズモビルのチーフデザイナー、アート・ロス(Art Ross)の主導で行われた。大きな楕円形のバンパーグリル、サイドモールディング形状などはその後の量産車に取り入れられた。しかし、下膨れの独特なドア形状、ヘッドランプに取り付けられた透明なカバーなどは採用されなかった。サイズは全長202in(5131mm)、全幅78.5in(1994mm)、全高54.3in(1379mm)(トップダウン状態)。ネーミングはGMアリソン製J-33ターボジェットエンジンを搭載したロッキードF-94A スターファイア戦闘機から頂戴している。製作台数は3台だが、2台はスクラップされ、1台は不明である。

05-44-05.jpg

上のイラストはサイドモールディングや途中で下がったベルトラインの形状などに、ドリームカーのスターファイア "X-P ロケット"の面影が見られる、1954年型オールズモビル スーパー"88"コンバーティブルクーペ。

05-44-06.jpg

05-44-07.jpg

上の2点は1954年GMモトラマに登場したオールズモビル カットラス。ファイバーグラス製ボディーの2シータークーペで、飛行機のキャノピーのようなルーフとルーバーの付いたリアウインドーを持つ特異なデザインの提案であった。大きな楕円形のバンパーグリルは2分割され、大きく開いたフロントホイールオープニングにはステンレススチールのインナーフェンダーが付き、奥にはエンジンルームの熱を放出するメッシュ状のルーバーが見える。324cid(5309cc)V-8 250馬力エンジン+ハイドラマチックATを積み、サイズは全長188.5in(4788mm)、全高51.5in(1308mm)、ホイールベース110in(2794mm)。ネーミングは水平尾翼を廃し、短く幅広の後退角主翼に2枚の垂直尾翼を配した、ユニークな形の戦闘機、チャンス・ボート F7-U カットラスから頂戴したもの。テールフィン後端に「88」のオーナメントが付くが、カットラスと命名されるまでは「ロングホイールベース F-88」と呼ばれていたと言われる。製作台数は1台で、GMから売却されたが所在は不明。(Photo:GM)

05-44-08.jpg

カットラスの顔が生かされた1956年型オールズモビル。

05-44-09.jpg

05-44-10.jpg

05-44-11.jpg

上の3点は1954年GMモトラマに登場したオールズモビル F-88。これはコルベットのオールズモビルバージョンとも言えるモデルで、コルベットの102in(2591mm)ホイールベースのシャシーに2シーターのファイバーグラスボディーを載せ、オールズモビルの324cid(5309cc) ロケットV-8の圧縮比を8.25:1⇒10.0:1に上げて量産型より65馬力強力な250馬力エンジンを積む。全長はコルベットより0.25in長い167.25in(4248mm)だが、全高は2in低い45in(1143mm)であった。発売当初は直6エンジンのみであったコルベットに対し、強力なV-8を積んだF-88の量産化も検討されたようであるが、1955年型からコルベットV-8が登場したため実現しなかった。ボディーと同色のリアバンパーには7個のオーバーライダーが付き、オーバーライダー5個分が下ヒンジで開いてスペアタイヤを格納できる。製作台数は4台で、各車とも細部が異なる。また、頻繁に塗色を変えたり、修正を加えて、数年間はいろいろなイベントに登場していた。更に、1955年にコルベットのシャシーがあれば1台完成させることができるボディーパーツと図面が、木箱に梱包された状態でハーリー・アール(GMデザイン担当副社長)からコード社の創始者E. L. コード(Cord)に送られている。このパーツはすぐに組み立てられることはなく、コードの没後、何度か転売を繰り返された後に1990年代にコルベットのシャシーに組み付けられた。そして、2005年にオークションで324万ドルというびっくりするような高値で落札されている。現存するF-88がこれ1台というのも皮肉な話である。もう1台どこかに生き残っているという説もある。(Photos:GM)

05-44-12.jpg

1956年9月に撮影されたハーリー・アールのF-88。オリジナルの状態からモディファイされ、貝殻状のホイールオープニング、新しいグリル、サイドモールディングおよびリアフェンダー後端のルーバーを廃し、クロームプレートのホイールカバーとホワイトリボンタイヤを履く。エンジンはスーパーチャージャー付きツインキャブ仕様に換装されている。(Photo:GM)

05-44-13.jpg

1957年に登場したF-88 Mark II。これは、一つ前の写真(1956年9月に撮影されもの)と同じ個体のボディー前後を大幅にモディファイしたモデルで、4灯式ヘッドランプや控えめなテールフィンが付く。このクルマはモトラマには展示されなかった。この個体はスクラップされたが、忠実に再現したレプリカが1台存在する。(Photo:GM)

05-44-14.jpg

1959年に完成したF-88 Mark III。長い間GMデザインを率いてきたハーリー・アール引退時に餞別として彼に与えられたクルマ。他のF-88とは大きく異なり、チューブラーフレームに1959年型オールズモビルのフロントサスペンションを装着し、エンジンは1958年型のV-8にツイン・ソレックス・サイドドラフトキャブレターを装着している。当初は試作品のロチェスター製フュエルインジェクションを装着したが、ハーリー・アールが住むフロリダ州パームビーチにメンテナンスできるディーラーが無くキャブ仕様に換装された。トランスミッションも当初は3速ハイドラマチックと2速リアアクスルを組み合わせた試作品の6速ATを積んだが、問題が多く標準のハイドラマチックATに換装されている。ボディーはファイバーグラスでステンレス製リトラクタブルトップを装備する。塗色は鮮やかな真紅であった。1969年、ハーリー・アールの没後、NASCARミュージアムに展示されていたが、その後、状態が良くないという理由でGMに回収されスクラップされたと言われる。(Photo:GM)

05-44-15.jpg

05-44-16.jpg

05-44-17.jpg

05-44-18.jpg

上の4点は1955年GMモトラマに登場したオールズモビル"88"デルタ。量産型88より2in短い、ホイールベース120in(3048mm)のシャシーに架装されたブルーのツートンに塗られた4シーターの2ドアハードトップクーペで、ルーフは薄いブルーに着色されたブラシ仕上げのアルミニュームが用いられていた。エンジンは1955年型オールズモビルの324cid(5309cc) ロケットV-8の圧縮比を8.5:1⇒10.0:1に上げ、デュアルエグゾーストの採用などで、量産型より48馬力強力な250馬力エンジンを積む。サイズは全長201in(5105mm)、全幅74in(1880mm)、全高53in(1346mm)。貝殻状のホイールオープニングにはステンレススチールのインナーフェンダーが付く。燃料タンクは15ガロン(57L)のものが2個、左右リアフェンダー内に収まる。フロント部分の造形は初代セドリックを連想させる。製作台数は1台でおそらく現存する。(Photos:GM)

05-44-19.jpg

05-44-20.jpg

05-44-21.jpg

05-44-22.jpg

上の4点は1956年GMモトラマに登場したオールズモビル ゴールデンロケット。1950年代オールズモビルのドリームカーの中で最も急進的なスタイルが与えられた2シータークーペで、量産モデルより35馬力強力な324cid(5309cc)275馬力エンジン+ハイドラマチックATを積む。サイズは全長201.1in(5108mm)、全幅75.4in(1915mm)、全高49.5in(1257mm)、ホイールベース105in(2667mm)。乗降の際、ドアを開けるとルーフの一部が跳ね上がり、同時にシートが3in(76mm)上昇して乗降し易いよう外側に回転する。スピードメーターはステアリングホイール中央のコラム上にあり、ステアリングホイールもスポーク部分で折り曲げが可能となっており、乗降を容易にしている。スプリットリアウインドーのデザインは1963年型コルベットに採用されている。(Photos:GM)

05-44-23.jpg

オールズモビル ゴールデンロケットのスタイルは、1953~55年にかけてベルトーネが発表したB.A.T.(Berlinetta Aerodinamica Tecnica)シリーズに触発されたと言われるが、筆者がまず連想したのはレイモンド・ローウィがデザインを担当した1950年型スチュードベーカーであった。

このページのトップヘ
BACK NUMBER

第111回 ミカサ – わが国初の前輪駆動AT車

第110回 BMWアート・カー

第109回 AMC グレムリン(Gremlin)

第108回 1963年型ビュイック リビエラ(Riviera)

第107回 キャディラック エルドラドブローアム

第106回 日産自動車創立25周年記念冊子

第105回 Automobile Council 2021

第104回 ランチア デルタS4

第103回 アバルト(ABARTH)

第102回 日野コンテッサ

第101回 鉄道が趣味だった時代

第100回 コレクションの紹介

第99回 Supercar ランボルギーニ

第98回 チェッカー

第97回 Automobile Council 2020

第96回 スズキジムニー誕生50周年(第3世代)

第95回 スズキジムニー誕生50周年(第2世代)

第94回 スズキジムニー誕生50周年(第1世代)

第93回 アメリカでコレクターズアイテムとなるR32 GT-R?

第92回 戦後のアメリカンコンパクトカー(3)

第91回 戦後のアメリカンコンパクトカー(2)

第90回 東京オートサロン 2020

第89回 戦後のアメリカンコンパクトカー(1)

第88回 シトロエンのロータリーエンジン車

第87回 シトロエン トラクシオンアヴァン

第86回 シトロエン創立100周年記念イベント

第85回 「モーターファン」誌1952年1月号に載った広告

第84回 英国人のハートをつかんだフィガロ

第83回 サクラ・オートヒストリーフォーラム2019

第82回 ジャパン・クラシック・オートモービル 2019

第81回 Automobile Council 2019

第80回 MINIの60周年記念

第79回 日産自動車初の大型トラック&バス(80型/90型)

第78回 東京オートサロン 2019

第77回 新町暮らシックCarまちなか博物館

第76回 2018トヨタ博物館クラシックカー・フェスティバルin神宮外苑

第75回 三菱500

第74回 空飛ぶクルマ

第73回 Automobile Council 2018

第72回 戦後から1950年代初頭のジャガー

第71回 フォルクスワーゲンのアメリカ進出

第70回 ACC・JAPANの東京交歓会

第69回 1949年型アメリカ車 – フォード編

第68回 1949年型アメリカ車 –クライスラー編

第67回 サーブ 92

第66回 東京オートサロン2018

第65回 ボルボ・カー・ジャパン、1959年式PV544をトヨタ博物館へ寄贈

第64回 2017トヨタ博物館クラシックカー・フェスティバルin神宮外苑

番外編 2017トヨタ博物館クラシックカー・フェスティバルin神宮外苑

第63回 1948年型アメリカ車 – インデペンデント編

第62回 1948年型アメリカ車 – ビッグ3編

第61回 Automobile Council 2017

第60回 1947年型アメリカ車 – インデペンデント編

第59回 1947年型アメリカ車 - ビッグ3編

第58回 戦時下に発行されたアメリカ車メーカーのポスター

第57回 AC & Shelby AC Cobra - 2

第56回 AC & Shelby AC Cobra - 1

第55回 ナッシュヒーレー&ハドソンイタリア

第54回 東京オートサロン2017

第53回 リンカーン コンチネンタル

第52回 2016トヨタ博物館 クラシックカー・フェスティバル in 神宮外苑

第51回 クライスラー300 レターシリーズ – その2

第50回 Automobile Council 2016 – そのⅡ

第49回 Automobile Council 2016

第48回 クライスラー300 レターシリーズ – Ⅰ

第47回 フォードランチェロ

第46回 1954年カイザー・ダーリン161

第45回 1950年代ポンティアックのドリームカー

第44回 1950年代オールズモビルのドリームカー

第43回 1950年代ビュイックのドリームカー

第42回 1950年代キャディラックのドリームカー

第41回 クラシックカー・フェスティバル

第40回 アメリカの初期SUV/MPV

第39回 メトロポリタン

第38回 フォード サンダーバード

第37回 シボレーコルベット(第1世代 – 2/2)

第36回 シボレーコルベット(第1世代 – 1/2)

第35回 1950年代のアメリカンドリームカー(4)

第34回 1950年代のアメリカンドリームカー(3)

第33回 1950年代のアメリカンドリームカー(2)

第32回 1950年代のアメリカンドリームカー(1)

第31回 1940年代のアメリカンドリームカー

第30回 戦後のアメリカ車 - 11 :1940年代の新型車(フォード)

第29回 戦後のアメリカ車 - 10 :1940年代の新型車(GM)

第28回 戦後のアメリカ車 - 9 :1940年代の新型車(パッカード)

第27回 戦後のアメリカ車 - 8 :1940年代の新型車(タッカー)

第26回 戦後のアメリカ車 - 7 :1940年代の新型車(ナッシュ)

第25回 戦後のアメリカ車 - 7 :1940年代の新型車(ハドソン)

第24回 戦後のアメリカ車 - 6 :1940年代の新型車(クライスラー・タウン&カントリー)

第23回 戦後のアメリカ車 - 5 :1940年代の新型車(クロスレイ)

第22回 戦後のアメリカ車 - 4 :1940年代の新型車(カイザー/フレーザー)

第21回 戦後のアメリカ車 - 3 :1940年代の新型車(スチュードベーカー)

第20回 戦後のアメリカ車 - 2 :1940年代の新型車(ウイリス/ジープ)

第19回 戦後のアメリカ車 - 1 :1946年型の登場(乗用車の生産再開)

第18回 アメリカ車 :序章(6)1929~1937年コード・フロントドライブ

第17回 アメリカ車 :序章(5)1934~37年クライスラー・エアフロー

第16回 アメリカ車:序章(4)1924~1929年

第15回 アメリカ車 :序章(3)1917~1923年

第14回 アメリカ車 :序章(2)フォード モデルT(1908年~1927年)

第13回 アメリカ車 :序章(1) 登場~1919年

第12回 AF+VKの世界:1959~1971年型ポンティアックのカタログ

第11回 コペンの屋根:リトラクタブルハードトップ

第10回 スクリーンで演技するクルマたち

第9回 シトロエンDSのこと

第8回 よみがえった『力道山のロールスロイス』

第7回 メルセデス・ベンツ300SL - SLクラスの60周年を祝して

第6回 近代的国産乗用車のタネ:外車のKD生産(その2)

第5回 近代的国産乗用車のタネ:外車のKD生産(その1)

第4回 短命だった1942年型アメリカ車のカタログ

第3回 「ラビット」から「スバル」へ - スバル最初の軽乗用車と小型乗用車

第2回 「キ77」と電気自動車「たま」。そして「日産リーフ」

第1回 自動車カタログ収集ことはじめ

執筆者プロフィール

1937年(昭和12年)東京生まれ。1956年に富士精密機械工業入社、開発業務に従事。1967年、合併した日産自動車の実験部に移籍。1970年にATテストでデトロイト~西海岸をクルマで1往復約1万キロを走破し、往路はシカゴ~サンタモニカまで当時は現役だった「ルート66」3800㎞を走破。1972年に海外サービス部に移り、海外代理店のマネージメント指導やノックダウン車両のチューニングに携わる。1986年~97年の間、カルソニック(現カルソニック・カンセイ)の海外事業部に移籍、うち3年間シンガポールに駐在。現在はRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)および米国SAH(The Society of Automotive Historians, Inc.)のメンバー。1954年から世界の自動車カタログの蒐集を始め、日本屈指のコレクターとして名を馳せる。著書に『プリンス 日本の自動車史に偉大な足跡を残したメーカー』『三菱自動車 航空技術者たちが基礎を築いたメーカー』『ロータリーエンジン車 マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜』(いずれも三樹書房)。そのほか、「モーターファン別冊すべてシリーズ」(三栄書房)などに多数寄稿。

関連書籍
ロータリーエンジン車 マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜
三菱自動車 航空技術者たちが基礎を築いたメーカー
トップページヘ