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第65回 ジャガーXE
2015.10.27

ジャガーが去る6月に導入した新型スポーツサルーンXEに、限られた時間だが試乗することが出来たので、今回はその第一印象をご紹介したい。XEは、かつてのMark2、近年ではXタイプというスモールジャガーの後継車で、サイズ的にはXJ、XFよりはかなり小型で、ベンツCクラス、BMW3シリーズに非常に近いモデルだ。「スポーツサルーン」と呼ぶにふさわしく、乗ることが楽しく、気持ち良いクルマに仕上がっており、価格も500万円を切るレベルから始まるので、日本も含め、ジャガーの販売台数拡大に貢献することは間違いない。

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ジャガーXE
XEはXタイプの後継車で、全長×全幅×全高が4,680×1,850×1,450㎜と、ベンツCクラス、BMW3シリーズに非常に近く、エンジンは、2L 4気筒、3L V6に加えて、年内に日本市場向けに2L ディーゼルが追加される予定だ。フォードの系列となっていた時代にモンデオのFFプラットフォームをベースに開発されたXタイプも悪いクルマではなかったが、今回のXEはフォードとの資本関係が解消した後の、ジャガー渾身のスポーツサルーンと言っても良いクルマで、価格も477万円から、一番高いモデルでも769万円と、なかなか魅力的だ。Xタイプには4WD仕様と、Estateと呼ぶステーションワゴンもあったので、今後の車種拡大も期待してよいのかもしれない。

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内外装デザイン
雑誌やカタログでXEを見たときには、XJ、XFゆずりのどちらかといえば保守的で控えめな外観スタイルにそれほどひかれなかったが、自然光のもとで見るXEの造形、中でも斜め前方からの見栄えはなかなか魅力的だ。サイズ的にも日本の市場に最もマッチしたジャガーであり、ベンツCクラスや、BMW3シリーズを多く見かける住宅街にぴったりのクルマだ。ただし顔周りをはじめとして、もう一歩XJ、XFとの差別化があっても良いのではないか?またリアドア後部のウィンドーの処理が、狭い駐車スペースでの後席乗降性にマイナスな点もちょっと気になるところだ。

内装デザインも保守的な造形だが、なかなか魅力的で、質感も好ましいレベルに仕上がっている。フロントドア上部からインパネ上部につながる造形は、写真のようにクルマとの一体感を醸成する一助となっている。ただしAピラーの太さに起因したワインディングロードの走行時のななめ前方視界はXF同様ちょっと気になる。「ロータリーシフター」と呼ぶ、シフトセレクターは操作性が良好で、好感が持てる。残念なのは、ドライブモードの切り替えスイッチで、「ECO」、「ウィンター」は右側、「ダイナミック」、「スタンダード」は左側スイッチで操作するため、視線の移動が必要となることだ。ダイヤル式スイッチなどにより、視線を動かさずにいずれの選択も可能となるようにしてほしい。

室内居住性は、私のドライビングポジションに設定した場合、後席の膝前に握りこぶしがたてに2個ほど入るスペースがあり、ファミリーカーとしては不足ないレベルだ。またセダンの場合、後席からの前方視界が犠牲になるクルマが少なくない中で、犠牲になるのが前方視界の1/4程度におさえられているのもうれしい。シートはやわらかい感触ではないが、着座感がよく、ホールド性、振動吸収性も良好だ。またリアシートの分割が4:2:4で、トランクスルー機能があるのも、私のようにスキーなどの長尺物の積載をしたい者には大変うれしいフィーチャーだ。

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走る
ジャガーXEのパワートレインは、現在は2種類の2Lの直列4気筒ターボエンジン(200psと240ps)、3L V6のスーパーチャージャーエンジン(340ps)だが、間もなく2Lのディーゼルエンジンも追加される予定だ。今回試乗したのは2Lの200psエンジンと、240psエンジン搭載車だったが、前者でも、スポーティーな走りを十分に楽しむことが出来た。エンジン音も4気筒ながら、気持ちよく回り、なかなかスポーティーで、安っぽさがないのがいい。スポーツサルーンといえども燃費は大切だが、JC08モードの値は、200ps車が11.8、240ps車が12.5km/Lとなっており、果たして実測燃費がどの程度となるかは興味深いところだ。

曲がる・止まる
「しなやかでしたたかな走り」はジャガーの伝統と言っても良いもので、イギリスのカントリーロードはもちろん、日本の道路を走る上でも非常に望ましい運動特性だ。XEに乗り始めた瞬間にその特性が体感できるのがうれしい。ボディーの75%以上にアルミニウムを使用することにより、軽量と同時に強靭で高いねじり剛性のモノコックボディーを実現、同時にアルミ製のナックルを採用したダブルウィッシュボーン式サスペンションと鋳造アルミによるサスペンションタワー、アッパーリンクとトーリンクは鍛造、ロワリンクとナックルは鋳造のアルミ製のリアサスペンションの採用などにより、軽量化と高剛性の両立をはかっていることも「しなやかで、したたか」な走りに貢献しているに違いない。またジャガーで初採用となる電動パワーステアリングも、フィール、切れ味ともにスポーツサルーンにふさわしいものに仕上がっている。

振動・騒音、乗り心地(NVH)
17インチタイヤを装着したモデルの乗り心地は大変良好で、市街地の細かい凹凸にも足がよく動いてくれ、前述のジャガーらしい、「しなやかでしたたかな走り」が十分に作りこまれており、18インチタイヤ装着車も合格点が与えられる乗り心地だ。この面でも剛性の高い車体と足回りが貢献しているのだろう。4気筒エンジンゆえの振動、騒音は、ほとんど気にならず、スポーティーなサウンドはなかなか魅力的で、ロードノイズも前席、後席とも非常によくおさえられている。

XEを一言でいえば
XEを一言でいえば、日本の道路事情、車庫のサイズなどにも良くマッチした魅力的なスポーツサルーンで、価格も高すぎず、これまでドイツ車が独占してきたスポーツサルーンのジャンルに新しい息を吹き込むことは間違い。間もなく導入が予定されるディーゼルターボバージョンも含めて日本におけるジャガーのシェアー拡大に大きく貢献するだろう。遠からずジャガーの歴史に精通したコベントリー生まれの英国人のオートモティブヒストリアンで、友人のBrian Long氏も交えての長距離評価も是非実施したいと考えており、その折には、再び皆様にご報告したい。

試乗車グレード Prestige、Portfolio ≪ ≫内はPortfolio
・全長 4,680 mm
・全幅 1,850 mm
・全高 1,415 mm
・ホイールベース 2,835 mm
・車両重量 1,595 ≪1,600≫kg
・エンジン 直列4気筒DOHCターボチャージャー
・排気量 1,998 cc
・圧縮比 10±0.5
・最高出力 200ps(147kW)/5,500rpm ≪240(177)/5,500≫
・最大トルク 320N・m/1,750-4,000rpm ≪340/1,750≫
・変速機 電子制御8速AT
・タイヤ 205/55ZR17 ≪225/45/ZR18≫
・タンク容量 63L
・JC08モード燃費 11.8 ≪12.5≫km/L
・試乗車車両本体価格 5,150,000円(消費税込)≪6,420,000円(消費税別)≫

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
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