<ツーリングカー>
自分の名前の付いた「ブガッティ」と言う車は「Type10」から始まった。今回最初に登場する「Type28」まではすべて4気筒で、排気量も唯一の例外「Type18ブラック・ベス」の5,027cc (この車は独立以前ドイツ社の為設計した大排気量車の流れを汲む異端児) を除けば、1300~1500cc止まりだった。「Type28」は初めて造られた「8気筒車」で排気量も3リッターと余裕を持っていた。その後造られた「Type35GP」など一連の純レースカーは、依然として1.5~2.2リッターだったのは、フォミュラーの規制だけではなく、エットーレ自身が「小排気量で軽量の結果が優れた操縦性をもたらす」という基本的な考えを持っていたのだろう。それまでは日常使用する車と、レースを走る車が明確に区分されていなかった時代だったが、「Type28」は明らかにレースを目的にした車ではなく、日常、より快適に使用するための新しい種類の車で、ブガッティの中では「ツーリングカー」と呼ばれる。
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① <Type 28> ツーリングカー(プロトタイプ) 1921
ブガッティの活躍したのが1920年代後半から 30年代と言うイメージが強く「Type28」が1928年に造られたように思うのは僕の思い違いだが、実際造られたのは1921年で、パリ・サロンとロンドン・モーター・ショーに展示された。ブガッティとしては初めての8気筒エンジンだが、実は既存の4気筒1.5リッターエンジンを縦につなげた物だ。ブガティはこのあと直列4気筒、8気筒、並列16気筒と4の倍数でエンジンを造ったが、不思議なことに6気筒や12気筒には全く関心を持たなかったようだ。
(写真01a) 1928 Bugatti Type28 (Prototype) Torpedo (2002-02 シュルンプ・コレクション)
この車に関しては古い資料ではシャシーだけが現存する、と記されており、その後資料に基づいて再現されたものなのでプロトタイプとしてショーに展示されたオリジナルではない。(但しパリ・ショーの写真ではベアシャシーが展示されていたが・・)
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② <Type 30> ツーリングカー 1922-26 (600台)
直8 SOHC 60×88mm 1991cc 50hp/3800rpm WB 2550mm、2850mm、
「Type30」は、プロトタイプの4台が前々回レーシングカーの項で登場した葉巻型の「シガー」だったが、本来は日常使用の為の「乗用車」としての目的で造られたもので、8気筒としては初めての量産市販車となった。「Type28」で試みた3リッター8気筒は、市販量産車を造るに当たってはひと回り小型でより安価な2リッターにスケールダウンされ、新たに設計されたエンジンを、同時進行中の「Type23」のシャシーに載せて「Type30」が誕生した。ブガッティ・エンジンの特徴となっている「四角な箱型」はこの車から始まった。
(写真02-1) 1922 Bugatti Type30 Roadster (2003-02 レトロモビル/パリ)
この当時の車はフェンダーの扱い一つですっかりスポーツカー風に見える。ライトとフェンダーを外してしまえばGPカーに変身する。
(写真02-2) 1925 Bugatti Type30 Tourer (2002-02 シュルンプ・コレクション)
8気筒車だけにボンネットの長さが目に付く。
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③ <Type38/38A> ツーリングカー 1926-27 (346台/39台 )
直8 SOHC 60×88mm 1991cc 60hp(T-38), 100hp(T-38A)/4000rpm WB 3122mm
ツーリングカー「Type30」の後継モデルは大きく飛んで「Type38」となった。その間に1923年には「Type33」が計画されたが生産には至らなかった。「Type38」のシャシーはその後造られたツーリングカー「Type40/43/44/49」にそのまま使われたほど優秀だったが、シャシーがより長くなった分エンジンは力不足で、特に重厚なボディを乗せた場合は非力が目立ち、より強力なパワーが求められた。その結果スーパーチャージャー付きのエンジンを載せた「Type38A」が誕生した。
(写真03-1) 1926 Bugatti Type38 Figoni Torpedo (1998-08 ペブルビーチ/カリフォルニア)
ペブルビーチのコンクールに登場した「フィゴニ」製のオープン・ボディは非常に長い車と言う印象を受けた。それと塗装したばかりではないか思われるほど綺麗過ぎて重厚感が感じられなかった。この色はこの車に似合いの色だろうか。
(写真03-2) 1927 Bugatti Type38 Roadster (2002-02 シュルンプ・コレクション/フランス)
(写真03-3) 1927 Bugatti Type38 Roadster (2002-02 シュルンプ・コレクション/フランス)
この車の砲弾型ヘッドライトは1930年代中頃のアメリカの匂いがする。
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④ <Type40> ツーリングカー 1926-30 (790台)
直4 SOHC 69×100mm 1496cc 40hp/4500rpm WB 2564mm
「Type40」は「Type38」の後継車ではなく、1926年まで造られ続けていた初期の傑作車4気筒1.5リッター「ブレシア」の分野を引き継いだ車だ。とはいっても既にレースを走るのは専門の車に任せる時代に入っていたから、造られた目的は「小型」「軽量」「安価」で量産・販売し易い平均的な車を造る事だった。シャシーは「Type38」の長さを切り詰めた物を流用し、エンジンはGPモデル「type37」の60hpを45hpにデチューンしたものを組み合わせ「Type40」が誕生した。大半はモールスハイム製のファクトリー・ボディ(4座トルペード式ツーリングタイプ)が架装された。この車についたニックネームが「エットーレのモーリス・カウレイ」だったのは、ブガッティとしては穏やかな走りや外観から、なかなか的を得た命名だと思う。(モーリスはイギリスの大メーカーで、「カウレイ」はそのベーシック・モデルとして最盛期の1925年には年間5万台が生産され、オースチン・セブンと並んで自動車の大衆化に貢献した)
(写真04-1) 年式不明 Type40 Tourer (2004-06 プレスコット/イギリス)
「Type40」は約800台造られたブガッティの廉価普及版だったが、人気モデル「Type43」と同じスタイルを持つ「トルペード型ボディ」がファクトリー標準ボディとして用意された。
(写真04-2) 1926 Bugatti Type40 Tourer (2001-08 河口湖博物館)
河口湖自動車博物館に展示されていたこの車も、典型的なファクトリー・ボディだ。
(写真04-3ab) 1929 Bugatti Type40 Tourer (2000-05 ミッレ・ミリア/ブレシア)
ミッレミリアに参加するためブレシアの車検場に向かう車で、ファクトリー・ボディのこの車には左側にしかドアが無い事が確認できる。幌を上げた姿もグラン・スポール「Type43」とそっくりだが、こちらは4気筒の為ボンネットが短い。
(写真04-4)1929 Bugatti Type 40 Van (2003-01 シュルンプ・コレクション/フランス)
いくら一番安いブガッティだと言っても「トラック」に改造するなんて・・・。
(写真04-5) 1928 Bugatti Type40 Roadster (2001-05 ミッレミリア/ブレシア)
こちらはどこか外部のカロセリアで造られたロードスター。
(写真04-6) 1928 Bugatti Type40 Coupe (2008-01 ドイツ博物館/ミュンヘン)
このボディ・スタイルはエットーレ好みの馬車をイメージした「ファイアクル・クーペ」で、超豪華車「ロワイアル」にも採用されたが、最安値でもこじんまりしたこちらの方がむしろお似合いだ。
(写真04-7) 1929 Bugatti Type40 Coupe (2003-02 シュルンプ・コレクション/フランス)
こちらも前と同じ馬車スタイルだが、ボディサイドがよりお洒落な「籐編み」で飾られている。
(写真04-8) 1928 Bugatti Type40 Berline (2003-02 シュルンプ・コレクション/フランス)
軽いオープンや小型のボディが多い中にも、この車のように無理してフルサイズで4ドアの重いボディを載せた例もある。この明るいグリーンは、今回登場する中でもこの車の他「T-28」「T-38」「T-46」などに見られるので、ブガッティの標準色かも知れないが、派手すぎて僕は好きではない。
(写真04-9ab) 1929 Bugatti Type40(A) Roadster (2003-02 シュルンプ・コレクション/フランス)
この車はシュルンプコレクションの一台で、掲示されている説明では「40A」となっていたので僕の資料の分類も「40A」としていたが、今回説明の中の排気量を見て"なんじゃ、これは"と気づいた。「40A」は排気量を1627cc に増やしたから「A」が付いたので、1496ccは唯の「40」じゃないか。実はシュルンプコレクションは現在はれっきとした「フランス国立自動車博物館」という権威ある存在の筈だが、数が多すぎるせいか内容の把握が甘く、ここで買ってきた分厚く豪華で高価な公式カタログの内容もしばしば首を傾げたくなるものや、明らかに誤っているものなど、信じたくはないがこれが国民性なんだろうか。
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④ -b <Type40A> ツーリングカー 1930 (40台)
直4 SOHC 72×100mm 1627cc 50hp/4500rpm WB 2714mm
1930年には排気量を増やした「T-40A」が誕生した。このエンジンはこの年から発売された「T-49」の8気筒エンジンと同じボア・ストロークを持つ、という事はその半分の4気筒を使ったものだった。ブガッティのネーミングとしては「A」の記号は「スーパーチャージャー付き」を表わすものだが、「T-40A」に限っては排気量の違いによる区別である。
(写真04b-1) 1928 Bugatti Type40A Roadster (2001-05 ミッレミリア/ブレシア)
先にも触れたように、「T-40」と「T-40A」は排気量の違いだけなので、外見からは全く識別ができない。だからイベントに参加した身元のはっきりした物しか特定できない。
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⑤ <Type43/43A> グラン・スポール1927-31 (160台)
直8 SOHC SC付き 60×100mm 2262cc 120hp/5000rpm WB 2972mm
「Type43」のシャシーは「Type38」の中央部を150mm切り詰めてホイールベースを短くしただけで、それ以外はギアボックスに至るまでそっくり流用している。エンジンは「Type 35B」の2.3リッターSC付きグランプリエンジンが搭載された。またホイールもGPモデル用のデタッチャブルリムが使用され、「Type38」の後継車ではなく、「ツーリングカー」と「GPカー」の中間的性格のこの新しいタイプをブガッティでは「グラン・スポール」と名付けた。この硬軟兼ね備えた車は快適な(レーシングカー並みの騒音を心地よいと感じられる人には)ツーリングと時にはヒルクライムや長距離レースも楽しめる素晴らしい車で、ある意味ではツーリングカーでレースも可能だった初期の「ブレシア」の再来と言える。ロードカーとしては初の100mph(時速160キロ)が可能で、数あるブガッティの中でも名車として高い評価を得ている。「Type43A」は1930年から登場したランブルシートとゴルフクラブ収納トランクを持ったアメリカン仕様のスペシャルバージョンである。(既にお気付きかも知れないがブガッティは幾つかのシャシーとエンジンを巧みに組み合わせて数多くの異なる性格を持ったモデルを作り出している。しかも同時期に多くのモデルを併売しており、調べたら1931年が一番多く 実に12種を扱っているから、タイプ別に順々に年次を経て行く訳ではなく、この年は「Type35」から「Type50」までが登場する。)
(写真05-1)1929 Bugatti Type43 GS Tourer (2004-06 プレスコット/イギリス)
「Type43GS」を代表するファクトリー製のトルペード・ボディで、このスタイルは他のシリーズにも使われているが、GPタイプのアルミ・ホイールがこの車を一層逞しく見せている。
(写真05-2) 1927 Bugatti Type43 GS Tourer (2003-02 レトロモビル/パリ)
(写真05-3) 1919 Bugatti Type 43 GS Tourer (2004-06 プレスコット/イギリス)
(写真05-4) 1929 Bugatti Type43 GS Torpado (2002-02 シュリンプ・コレクション/フランス)
フェンダーが大きく明らかに他のクルマとは印象が異なるこの車は、どこか名のあるカロセリアの手掛けたボディのトルペードで、元の所有者はベルギーのレオポルド国王。
(写真05-5) 1928 Bugatti Type43 GS Tourer (2004-06 プレスコット/イギリス)
前方から見ると2シーターのようにも見えるが、後席はカバーされており、本来は4ドアのツーリング・ボディである。
(写真05-6)1930 Bugatti Type43A GS Roadster (2002-02 シュルンプ・コレクション)
「Type43A」は機能的には「Type40」と変わる所は無く、ランブル・シート付きのロードスターで、前席と後席の間にゴルフバッグを収納するため右側に小さな収納口を持つアメリカンタイプのボディに付けられた名称で、ブガッティの正式な分類の型式名ではない。
(写真05-7) 1929 Bugatti Type43A GS (2004-06 プレスコット/イギリス)
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⑥ <Type44> ツーリングカー 1927-30 (1095台)
直8 SOHC 69×100mm 2991cc 80hp/4000rpm WB 3122mm
「Type44」はツーリングカーとして「Type38」を引き継いだが、非力な2リッターエンジンに換えてより馬力と静粛性を求めて造られた新型の3リッターエンジンが載せられた。このエンジンはブガッティが日常使用のための乗用車(ツーリング)を造るに当たって、最初に試みた「Type28」(プロトタイプ)と酷似しており、当時時尚早として断念した3リッターを実現させたものともいえる。この車のロードインプレッションによると、操縦のし易さ、軽い操作、ねばるトルクなど、乗用車として当たり前な事に痛く感動しているが、今までのレーシングカーもどきの数々のブガッティは、重いクラッチや狭いトルクを使って巧みに操る事に生き甲斐と誇りを感じる種類の車なのかもしれない。この頃からモルスハイムの自社内でボディも造るようになり、ファクトリー・ボディの数も増え、総生産台数も1000台を超える大ヒットとなった。
(写真06-1) 1927 Bugatti Type44 Touring (2000-05 ブレシア/ミッレミリア)
標準的なファクトリー製のツーリング・ボディで、色々なタイプで使われたからブガッティを代表するスタイルだ。
(写真06-2)1927 Bugatti Type44 Touring (2001-05 ブレシア/ミッレミリア)
(写真06-3ab) 1927 Bugatti Type44 Faux Cabriolet (1989-01-22 明治公園)
こちらは上品でおとなしい感じの箱型で、リアクオーターの両側に付けられている金具は「ランドウ・ジョイント」と呼ばれる、カブリオレの屋根を畳む際必要な用具だが、この車はレザーで覆われた屋根の下はスチールトップで、オープンにはならないので「Faux Cabriolet」(見せかけだけの、或いは偽の)と呼ばれる。
(写真06-4) 1927 Bugatti Type44 Ganglof Coupe (2002-02 シュルンプコレクション)
この車も前の車と似た雰囲気を持つお洒落な車だが、こちらは固定屋根のクーペボデイ。写真でははっきり判りにくいがボディサイドの白っぽく見える部分は籐編みで装飾されている。
(写真06-5ab) 年式不明・推定 Bugatti Type44 Coupe (2004-06 プレスコット/イギリス)
この極めて個性的なスタイルは、「ヴォアザン」(資料参照)とかなり共通点がある。殆ど直線で構成されたキャビンはある種芸術的だが、本物に較べるとどこか完璧とは言えない印象を受ける。多分ヴォアザンをイメージして後年何処かで造ったのだろうがオリジナルのバランスは出し切れなかった所為(せい)だろう。
(写真06-5c)(参考) 1927 Voisin C14
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⑦ <Type46/46S> ツーリングカー 1929-36 (400台/S18台)
直8 SOHC 81×130 5359cc 140hp,160hp(46S) /3500rpm WB 3500mm
「Type46」の狙いは超豪華車「Type41 ロワイアル」と同じ最上位の顧客層を対象にしたものだから、たとえ排気量は1/3とは言えその後継車とも言える。(ただこの時点でも「ロワイアル」はまだ売れ残っていたから後継車と言っていいのか?)非実用的な「ロワイアル」に較べ、量産され実際に販売されたブガッティの中では最大級の排気量を持つ。この車は、3リッター「Type44」では満足できないより大きい車を望む声に応えて誕生したので、分類上は大型乗用車としその上のクラスとなる。エンジンはロワイアルのレイアウトでボアを125mmから81mmまで縮小しコンパクトにまとめたが、ストロークの130mmはそのままだったから、ストローク/ボア比1.6と言う極端な超ロングストローク・エンジンとなった。(因みにオリジナルは1.04で殆どスクエアー)その代わり、スタート以外はすべてトップ・ギアを維持すれば自在に加速できるトルクを持っていた。トップ・ギアで走るもう一つの理由は、ご主人様は後部座席に座るが、構造上その下にギアボックスがあり、トップ以外は余計なギア・ノイズが発生するのでいち早くシフトアップするのがドライバーの心得でもあったらしい。「ロワイアル」は大きすぎて手こずったエットーレが本当に気に入っていたのはこの「Type46」だったと言われる。1930年代初頭の世界的大恐慌を生き延びて、1936年までに400台も造られたロング・セラーである。
(写真07-1) 1930 Bugatti Type46 Gangloff Limousine (2002-02 シュルンプコレクション)
大型モデル「Type46」に相応しい、堂々たる6窓「リムジン」で、さすがの貫録はそれなりの階級の人の乗り物だ。
(写真07-2) 1933 Bugatti Type46 Million-Guiet Limousine (2002-02 シュルンプコレクション)
こちらもリムジン仕様だが前の車に較べると軽快な感じを受ける。ただこの車のタイヤはトラックの様な目の粗いパターンを持っているのはなぜか? まさか砂漠の王様を狙ってのパフォーマンスだったのか。
(写真07-3) 1934 Bugatti Type46 Gangloff Berline (2003-02 シュルンプコレクション)
こちらは博物館で買ってきた「公式カタログ」では個別紹介の欄では「リムジン」と紹介されているが、巻末のデータ・リストでは「サルーン」となっている。見る限りでは「リムジン」ではなさそうだ。
(写真07-4) 1930 Bugatti Type46 Drophead Coupe by Letourner & Marchand
(2002-02 シュルンプコレクション・フランス)
大型車でありながら2ドアで2人乗りの贅沢なドロップヘッド・クーペだ。
(写真07-5) 1931 Bugatti Type46 Roadster (2002-02 シュルンプコレクション)
1931年型となっているが、ボディは明らかに1930年代後半の特徴を持っている。全体のレイアウトからはアメリカの「オーバーン851」を強く意識したようで、特に砲弾型のヘッドライトはそのものだ。ただラジエター前のフェンダー内側が垂直にカットされているのはブガッティでもずっと後から出た「Type57 SC」クーペ・アトランチックを模倣しているので改造されたのは1940年頃かもしれない。
(写真07-6ab) 1933 Bugatti Type46 Ventoux Fixedhead Coupe
(2003-02 シュルンプコレクション/フランス)
この車が造られた1933年と言えば殆どの車が箱型だったから、その時代の目で見ればいかに並はずれたスタイルを持っていたか想像して頂きたい。デザインしたのはジャン・ブガッティでこのデザインは「Type50」がデビューした時にも使われている。
(写真07-7abc) 1929 Bugatti type46 S Rainbolt & Christe Cabriolet
(1998-08 ペブルビーチ・カリフォルニア)
最上級モデルでも満足できない顧客の為、更にその上に造られたのがスーパーチャジャーを付けた「Type46 S」で、「ロワイアル」並みに「象のマスコット」が付けられたものもあった。
ペブルビーチのコンクールに参加していたのは「Rainbolt & Christe」と言うあまり聞いたことの無いカロセリアで造られた4ドアカブリオレで、なかなか堂々としている。
(写真07-8)1934 Bugatti Type 46 S Gangloff Berline (2002-02 シュルンプコレクション)
「Type46」シリーズの中でも終わり近くとなるとスタイルも大分モダン化してきたことが判るのがこの車だ。
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⑧ <Type49> ツーリングカー 1930-34 (470台)
直8 SOHC 72×100mm 3257cc 85hp/4000rpm WB 3122mm/3222mm
「Type49」は「Tpe44」の後継モデルとして1930年から発売されたが、エンジンはボアを69mmから72mmに拡げ排気量を3.3リッターの増やしたもので、いくつかの改良を加えてはあるが基本的には「Type44」の発展型である。歴史的に言えばこのエンジンがブガッティとしては最後の「SOHC」(シングル・オーバーヘッド・カムシャフト)エンジンとなった。ホイールベースは2種類から選べ、外観ではツーリングカー用のフィンの付いたアルミホイールが付いて、より高級感が増した。この後「Type57」がツーリングカーとして引き継ぐことになるのだが、「Type49」のひと回り小さいサイズと、軽い重量からくるハンドリングの良さはツーリング・タイプでは最良との評価も高い。
(写真08-1abc) 1932 Bugatti Type49 Roadster (2000-05 ブレシア/ミッレミリア)
ミッレミリアに参加したこの車は2ドアのロードスターでトランクの長さから推定するとランブルシートが付いて居そうだ。場所は「ロッジア広場」で、これからすぐ隣にある車検場「ビットリア広場」へ向かう。
(写真08-2ab) 年式不明 Bugatti Type49 Roadster (1999-08 クリスティズ・オークション)
この車も前の車と殆ど同じ形のロードスターだがドアが前開きだ。「Type49」は発売時後期型より100mm短いショートホイールベースでスタートしたが、写真の車はその初期型だろう。よく見ると右後ろのフェンダーの上部に白いものが見えるが、これはランブルシートへ乗り込むためのステップだ。
(写真08-3) 1930 Bugatti Type49 Roadster (1994-05 ブレシア/ミッレミリア)
ミッレミリアで見つけたこの車は2ドアロードスターでかなり長い後部トランクにはランブルシートがありそうだが、見る限りでは把手もステップも見当たらない。
(写真08-4) 1933 Bugatti Type49 Vendooren Berline (2002-02 シュルンプコレクション)
(写真08-5) 1934 Bugatti Type49 Gangloff Berline (2002-02 シュルンプコレクション/フランス)
スクエアーの箱型ボディは「Type46」に登場した白いリムジンと同じような造りだが、こちらは2ドアのベルリーナでより実用的だ。見た目の迫力は「T-46」にも引けを取らない。
(写真08-6 1934 Bugatti Type49 Cabriolet (2002-02 シュルンプコレクション)
この車はいまいちスタイルがピッタリ来ない。カブリオレのかさばる幌を下した時後方視界を妨げないようにボディラインより下に収納するレイアウトになっているので、この角度では尻下がりに見えるのが仇となったか。
(写真08-7) 1933 Bugatti Type49 Coupe (2003-02 シュルンプコレクション/フランス)
2ドア4シーターのクーペで窓の形に特色を出している。
(写真08-8) 年式不明 Bugatti Type49 Coupe (2004-06 プレスコット/イギリス)
駐車場で見つけた車なので年式は不明だが、全体に丸みを持つボディは最後期の1934年頃ではないか。後姿は1936年以降に登場した「Typr57」を先取りしている。
(写真08-9ab) 1934 Bugatti Type49 Gangloff Berline (2003-02 シュルンプコレクション)
最後期に造られた1台で、ボディは旧態全とした箱型だが、ラジエターには「Type57」と同じようなシャッターが付いた。
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⑨ <Type50> ツーリングカー 1930-34 (65台)
直8 DOHC SC付き 86×107mm 4972cc 200hp-4000rpm WB 3100mm(T-50)/3500mm(T-50T)
「Type50」はブガッティ初の「ツインカム・エンジン」として知られる車だ。それまで頑(かたく)なに「四角い箱」のエンジンに拘っていたエットーレだったが、遂に「外見」より「馬力」を優先する事態となった。その発端はツインカム仕様の「ミラー・エンジン」で、このエンジンのパフォーマンスはブガッティの主力「Type35B」が120~130hpで精一杯のところ、同じ1.5リッターで40%も上回っていたからだ。1929年このエンジンを手に入れ研究の結果、より効率のいい新ツインカム・エンジンが誕生した。親父より進歩的な考えの息子ジャンに説得されて渋々改良に踏み切ったことは想像に難くない。(ツインカム・エンジンになってからも外観はシンプルで十分美しい)「Type50」はツーリングカーだから「Type49」の後継車と思われがちだが、同じツーリングカーでも大型の「Type46」を継ぐ、厳密に言えばスーパーチャージャー付きなので「Type46 S」の後継車である。シャシーとトランスミッションはT-46から転用しそれに新DOHC 5リッターエンジンを載せて「Type50」が誕生した。T-46ではT-41ロワイアル・エンジンのストロークを残したままボアを縮小して排気量を下げたため81×130mmと言う極端なロングストロークとなったが、新エンジンでは80×107mmとなり、ボア・ストローク比も1.6から1.2と常識的な比率に戻った。排気量は減ったがT-46より増えた馬力でラグジュリークラスの最上位に立った「Type50」には、有名なカロセリアによってバラエティに富んだ多くのボディが架装された。
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(写真09-1) Type50T 用ツインカム・エンジン (2003-02 レトロモビル/パリ)
こだわりの四角い箱と惜別し、新しく選んだツインカム・エンジンがこれだ!
(写真09-2a) 1931 Bugatti Type50T Touring (1997-05 ブレシア/ミッレミリア)
(写真09-2b) 1931 Bugatti Type50 Touring (2004-06 プレスコット/イギリス)
「Type49」と「type50」は両方ともツーリングカーで、同じ時期に併売された。「T-49」のSOHC 3.3リッターに対し「T-50」はDOHC 5リッターで、最上位にランクされる車だが、写真の様な古典的な、どちらかと言えば地味な感じもするオープンボディも造られた。
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写真09-3ab) 1931 Bugatti Type50 Drophead Coupe by MillionGuiet
.......................... ..................................... (2003-02 シュルンプコレクション/フランス)
一方こちらの洒落た車は、ミシュラン社長の車で1936年にモダンなボディに載せ替えた。ボンネットのベンチレーションは「BMW328」とよく似ている。
(写真09-4a~d)) 1932 Bugatti Type50T Coupe ........(1971-03 ハーラーズコレクション/晴海)
この車こそ僕が最初に見たブガッティだ。1973年3月、アメリカのハーラーズ・コレクションが大挙してやって来た。まだあまり知識の無かった僕はこの流れるような曲線を持った「Type50」が、ブガッティの第一印象として頭に刷り込まれてしまっており、これは当時としては極めて先進的なデザインであった事を知ったのはかなり経ってからの事だった。とにかくそのデザインの見事さに魂を奪われてしまった僕はこの周りを何度廻った事か。この時78枚もシャッターを切ってしまったという事実がその時の僕の興奮度を示す証だ。
(写真09-5) 1930-34 Bugatti Type50T (1/24 プラモデル/Heller社・フランス)
僕が興奮して撮りまくったジャン・ブガッティのデザインした「Type50」はフランスの「エレール社」からプラモデルとなって発売されている。
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⑩ <Type54> (元グランプリカー)1932-34 (4~5台)
直8 DOHC 86×107mm 4972cc 300hp/4500rpm WB 2750mm
「Type54」はGPカーとして誕生した。 プロトタイプのみで終わった16気筒「Type45」のシャシーと「Type50」のエンジンを組み合わせ、僅か"13日"でモンザGPを走ったという伝説の車で、大排気量のマセラティやアルファロメオに対抗するための非常手段だった。GPカーとしては3位止まりで慣れない大型車にはドライバーも十分力を出せなかったようだ。僅か4~5台しか造られなかったが、後年ロードバージョンに作り直され素晴らしいロードスターに生まれ変わったのがこの車で、他に「Type55」風のボディに改装された車もある。
(写真10-1a~d) 1931 Bugatti Type54 Roadster (1995-08 ラグナセカ/カリフォルニア)
(参考)「Type54」のオリジナルはこんな形のGPカー
「Type54」のカテゴリーは「GPカー」なので今回のテーマからは対象外だが僅かしか造られなかった中から少なくとも2台は素晴らしいロードバージョンに造り替えられた。
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⑪ <Type55> スーパー・スポーツ 1932-35 (38台)
直8 DOHC SC付き 60×100mm 2262cc 130hp/5000rpm WB 2750mm
「Type55」は基本的には「Type54」のシャシーに「Type51GP」のエンジンを組み合わせた、ブガッティお得意の手法で誕生したスポーツ・バージョンで、「Type43」グラン・スポールの後継車と言うよりは一つ上の、より高性能なクラスを狙った車だ。GPカーを除く全ブガッティの中で最も高性能で、最も恰好よくて、最も高価な車だ。この車の魅力はジャン・ブガッティがデザインしたロードスターの流れるようなフェンダーを持つスタイルも、性能と共に憧れの的となっている。もちろんGPエンジンを持つ性能は最高時速180km に加え、定評ある粘りのあるエンジンは低速でのトルクが高く、恐ろしいほどの加速を持っていた。僅か38台しか造られなかったと言われる「Type55」は各地のイベントでもなかなかお目に掛れないが、それはシュルンプ兄弟がその内の8台を買い占めてしまったせいかもしれない。
(写真11-1ab) 1933 Bugatti Type55 Super Sports Roadster(1995-08 カリフォルニア)
カリフォルニアの太陽の下で捉えた「Type55」で、シュルンプコレクション以外で撮影した数少ない例だ。
(写真11-2) 1932 Bugatti Type55 Super Sports Roadster (1994-05 ミッレミリア)
こちらも1994年初めてミッレミリアを見に行った時の撮影で、この先を左に曲がればすぐ車検場なのだが、そこには4方向から車が向かっているので、今一歩のところで渋滞はなかなか進まない。
(写真11-3ab) 1932 Bugatti Type55 Super Sports Roadster (2003-02 レトロモビル/パリ)
パリで開かれる「レトロモビル」の会場では自動車に関するあらゆるものが展示・販売されているが、「クリスティ」のオークションに掛けられる車も展示されており、その中にこの車があった。
(写真11-4) 1932 Bugatti Type55 Super Sports (1/20プラモデル /Bandai社・日本)
「レトロモビル」で見たのと同じジャン・ブガッティのデザインした典型的なロードスタが日本の「バンダイ社」からプラモデルで発売されている。
(写真11-5) 1933 Bugatti Type55 Super Sports Roadster (2003-02 シュルンプコレクション)
(写真11-6) 1934 Bugatti Type55 Super Sports Roadster (2003-02シュルンプコレクション)
この2台は色違いだが「Type55」の標準スタイルのロードスターだ。この博物館はいい車はなぜか薄暗い所に展示するのが好きだ。
(写真11-7) 1932 Bugatti Type55 Super Sports Coupe (2003-02 シュルンプコレクション)
(写真11-8) 1932 Bugatti Type55 Super Sports Coupe (2003-02 シュルンプコレクション)
この2台は「Type55」の中では数少ないクローズドボディのクーペで、キャビンの高さに差はあるが、両車共にオリジナルのロードスターほどの際立った美しさを感じない。
(写真11-9) 1935 Bugatti Type55 Super Sports Roadster (2002-02 シュルンプコレクション)
1935年製とあるので最終期に造られたものだろう。年代からいえば丸みがかったスタイルは当時の感覚だが、フェンダーまわりのボリュームが有り過ぎて軽快感がなく同じロードスターでもオリジナルには遠く及ばない。
(写真11-10 ) ―― Bugatti Type55 (Repulica) (1989 -01 明治公園)
最後におまけを一つ。国内のイベントで見つけた「Type55モドキ」です。ベースが何かは不明ですが、長すぎるホイールベースと太すぎるタイヤ以外は大変良く出来たレプリカだと思います。
次回はエットーレ存命中最後のツーリングカー「Type57」と、「ブガッティの変り種」、そして最後にエットーレが「未完成のまま残した試作車」をお送りします。