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第59 回 マツダCX-3
2015.4.27

最近のマツダ車には魅力的なモデルが多いが、去る2月27日に発表されたCX-3は、デミオをベースに開発したコンパクトクロスオーバーSUVで、スタイリッシュで質感の高い内外装デザインと、国内市場は1.5Lディーゼル一本に絞った思い切った商品企画だ。発売後1カ月に満たない時点で国内での受注が1万台を超えたという。今回お台場で開催されたRJC向けのCX-3試乗会では、走行距離こそ短いが、2WDの6ATと6MT 、4WDの6ATと6MTの4つのバリエーションに試乗することが出来たので、今回は全体の印象をご報告し、遠からず車評コースにおける実測燃費や長距離評価も含む他車との比較を行いたい。

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マツダCX-3
CX-3でまず目を引くのは、ダイナミックで魅力的な外観スタイル、統一感があり質感の高い内装デザイン、国内向けは1.5Lディーゼル一本に絞った点などだ。ベースはデミオだが、デミオとは完全に一線を画したコンパクト "プレミアム" クロスオーバーSUVに仕上がっており、心配した後席居住性、荷物積載性は、ホンダベゼルとのギャップはあるものの、多くのユーザーにとっては許容範囲だろう。2WD、4WD、6AT、6MTが全グレードに設定されるが、いずれもスカイアクティブDによる走りは特筆に値するレベルで、実測燃費もかなり良さそうだ。「走る」に加えて、「曲がる&止まる」も大変気持ち良く、i-ACTIV AWDへの期待も大きい。海外市場も含めた販売動向に注目したい。


商品コンセプト
CX-3は、単なる「デミオベースのSUV」でも「CX-5の弟分」でもなく、『コンパクトながらプレミアム性も備えた新ジャンルのクルマとして位置づけたい』、という思いに基づいて開発されたクルマだ。SUVは本来十分なオフロード走破性も備えたトラックシャシーベースで4駆メインのクルマだが、世界的にみてもアメリカ西部のように自由にオフロードを走れる環境は極端に限られるため、近年はSUVに代わって乗用車のプラットフォームを活用したクロスオーバーSUVが世界市場で急速に増加している。

クロスオーバーSUVは、セダン、ハッチバック、ステーションワゴン、ミニバンなどに付きまとう生活臭を払しょく、都市内の日常生活にも使いやすい上に"遊び心"に満ちたクルマだ。CX-5もクロスオーバーSUVと呼ぶにふさわしいモデルで、都心部でも愛用者が多く、世界市場でも多くの販売実績をあげているが、CX-3はCX-5より一回り小さいながらプレミアム性という視点ではむしろCX-5を上回るレベルであり、世界市場でブランドの高揚をめざすマツダの挑戦の一貫と言ってもいいだろう。

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外観スタイル
CX-3の最大の魅力の一つが外観スタイルだ。「魂動デザイン」はCX-5から始まり、CX-3が第5弾となるが、CX-3のシャープでスタイリッシュなデザインはなかなかのものだ。フロントグリル、ヘッドライト周りのマツダが「シグネチャーウィング」とよぶ造形も鋭さと質感が増しているし、グリル内にライセンスプレートを配置しなかったのもいい。フロントフェンダーから伸びるキャラクターラインはこれまでのモデルより力強く、オーバーハングの短いリアクオーターからテール周りの塊感も大きな特徴だ。

ただし「XD Touring、XD Touring L Packageの全てが18インチタイヤ」にはひとこと言いたい。デザイン上の思いは分からぬではないが、CX-3で18インチタイヤの性能を使い切るシーンは皆無といってよく、それよりも新車コストへの跳ね返り、摩耗したタイヤの交換やスタッドレスタイヤへのはき替えのコストは、若年層にも熟年層にも厳しく、更にばね下重量の増加、乗り心地への影響もあるので、ベースは現在と同じ16インチ、上級グレードでも17インチとし、18インチは一部の車種に限定すべきではなかいか?マツダに限らず「オーバーサイズシンドローム」に改めて警鐘をならしたい。

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内装デザイン
内装デザインはドアトリムの周辺に若干違いがある以外はデミオとほとんど同じだが、デミオのコックピット周辺デザインがスポーティーかつドライバーへの配慮に富んだもので、質感もクラスの平均値を大きく超えており、CX-3の内装デザインに全く不満はない。メーター類の視認性、コントロール類の操作性も良好だ。デミオにはない後席アシストグリップもつく。

ただし小さな注文はある。ハンドルの握りの部分の触感は日本の同クラスのクルマより明らかに良いのに縫い目の触感にはがっかりするからだ。また天井の不織布も見た目は少し改善されたが、触感は相変わらずだ。クルマトータルの質感は大幅に改善されているので、これらのマイナーな点の質感改善にも是非努力してほしい。

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パッケージング
デミオに比べて全長、全幅はそれぞれ215mm、70mm大きい。立体駐車場対応のために全高を1550mmにおさえたことは都市部の顧客には大きなプラスとなるだろう。最近のマツダ車のペダル配置は運転のしやすさを充分に意識したもので、CX-3のペダル配置も良好だ。加えてデミオもそうだが、ハンドルがチルトだけではなく、50mmテレスコピック移動もすることも評価したい。

デミオとホイールベースは同じなので、後席の居住性、荷物積載性を心配していたが、前席を私のドライビングポジションに設定して後席に座ると、後席膝前に握りこぶしがひとつ入るので、ぎりぎりOKといえそうだ。後席ヒップポイントが前席より37mm高く、25mm内側に寄せられているため前方視界が良く、前席乗員との対話がし易いのはうれしい。後席シートクッションの着座感、シートバックの高さもいい。

荷室スペースにゴルフバックは入らないが、6:4分割のいずれかのシートバックを倒せばフラットなカーゴスペースとなり、ゴルフバッグや、少々の長尺物なら積載できそうだ。2段式ラゲッジルームも便利だ。私にとってスキーの搭載性は大切な要素なので遠からずスキーなどの積載性を検証してみたい。日本のスキー人口が大幅に減少しているとはいえ、クロスオーバーSUVの購入層にはスキー、スノーボードファンが少なくないはずで、スバルも含めて日本メーカーには欧州車のスキー積載に対する配慮をよく検証してほしい。

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走りと燃費
CX-3はデミオのディーゼルバージョンに比べて(グレードにより)110kgから160kg重いため走りがちょっと心配だったが、今回2WD、4WD、6AT、6MTのすべてに乗り、その心配は払しょくされた。CX-3用のディーゼルエンジンの最高出力はデミオと同じ105psだが、最大トルクは27.5kgmと2kgm高められており、1,600rpmから2,500rpmまで2.5Lガソリンエンジン並みのトルクが得られることのメリットは大きく、AT、MTとも実に気持ちの良い走りが得られる。マツダ製6速ATの本体はデミオと同じだが、最終減速比がデミオより大きいことも効いているのだろう。

このATはロックアップ率が非常に高く、ダイレクト感に富み、変速ショックも少なく、微低速ではDCTよりスムーズで、燃費面でも貢献しているはずだ。クルマ好きの方にも大いにお勧めしたい。6速MTはデミオディーゼルのものよりトルク容量が大きく、変速の操作フィールはストローク、節度感とも非常に小気味よい。MT車の「走る喜び」は、ライバルで思い浮かぶものがないレベルで、近年MTを避けてきた人々も是非試乗することをおすすめする。トランスミッションの選択に関してはご自身での試乗後がベストだろう。

燃費はJC08モードでグレードにより21km/Lから25km/Lの間だが、過日評価したデミオXD 6ATの場合26.4km/Lのカタログ値に対して車評コースの実測燃費で25.7km/Lという非常に優れた数値を記録したので、長距離走行や車評コースでホンダベゼルの実測燃費(那須往復で16.8km/L)を上回る可能性もあり、今後の実測燃費の測定が楽しみだ。

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ハンドリング、乗り心地
CX-3はハンドリングも非常に気持ち良い。デミオのプラットフォームを活用しつつ、随所を補強、サスペンションも形式は同一だが、ほとんど専用設計で、トレッドもフロントが30mm、リアが40mm拡大されている。デミオもステアリング・ハンドリングが非常に気持ち良いクルマに仕上がっていたが、CX-3のセンターフィールの安心感、上質感、そこから舵角を与えた場合のクルマの動きなどは特筆に値するレベルだ。箱根などのワインディング路の評価も楽しみだ。

乗り心地にもひとこと言及しておこう。まずはじめに乗った16インチタイヤ装着車の乗り心地は非常に好印象をもった。次に試乗した3台の18インチタイヤ装着車のうち、2台は低速時の凹凸乗り越えも許容できるレベルだったが、1台は許容レベルに達していなかった。なじみの違いか、ばらつきか、理由は定かではないが、18インチタイヤが乗り心地の面である程度の足かせとなりそうだ。ちなみに空気圧はすべてのモデルが前、後とも250kPaとかなり高めに設定されているのも原因のひとつだろう。

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ナチュラル・サウンド・スムーザーとi-ACTIV AWD
最後に世界でも初めてのナチュラル・サウンド・スムーザーとi-ACTIV AWDにも一言触れておきたい。ディーゼルエンジンにつきもののノック音に着目したマツダのエンジニアが稼働中のエンジン運動部品の振動解析を行い、その原因がピストン・コンロッド系の振動であることをつきとめた。その振動を実にシンプルなダイナミックダンパーをピストンピン内部に挿入することにより、吸収できることを発見、商品化したものだ。ただし現時点装着はi-ELOOP(電気エネルギー回収機構)とのパックとなっており、またSKYACTIV-Dそれ自身のエンジンノイズが非常に良いレベルなので、今後どのように装着が拡大してゆくか、あるいはマツダ以外のエンジンノイズの大きなディーゼルエンジンへの技術提供がありうるのかも興味深い。

もう一点今回我々は評価できなかったが、過日一部メディア向けの北海道評価で非常に高い評価結果がでていたのがi-ACTIV AWDだ。勾配、操舵角、アクセル開度など27ものセンサーを使ってドライバーの意図と刻々と変化する走行状況、路面状況を正確に検知し、前輪がスリップする以前に最適な前後トルク配分を実現したもので、このシステムはすでにCX-5から導入されたものと同じという。来シーズンには是非雪上評価もしてみたい。

バリューフォーマネー
このように非常にポジティブな印象をもったCX-3の税込車両本体価格は¥2,376,000から¥3,024,000で、サイズからみて決して安いとは思わないが、取得税、重量税が免除され、自動車税が概ね75%減税、さらにはクリーンディーゼル補助金などの優遇があることを考えるとバリューフォーマネーは悪くないといえよう。

試乗車の中の1台のスペック CX-3 XD Touring
・全長 4,275mm
・全幅 1,765mm
・全高 1,550mm
・ホイールベース 2,570mm
・車両重量 1,340kg
・エンジン 直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
・排気量 1,498cc
・圧縮比 14.8
・エンジン最高出力 105ps(77kW)/4,000rpm
・エンジン最大トルク 27.5kgm(270N・m)/1,600-2,500rpm
・駆動方式/変速機 4WD/6速AT
・タイヤ 215/50R18
・燃料消費率 JC08モード燃費 21.2km/L
・試乗車車両本体価格 2,818,800円(消費税込)

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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