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第56回 ホンダ グレイス&ルノー ルーテシア ゼン
2015.1.27

今回は過日車評コースでマツダデミオと同時比較を行ったホンダグレイスと、ルノーが最近導入したルーテシア ゼン(0.9Lターボ)の短評をご紹介したい。ホンダグレイスはフィットをベースに、ホイールベースを70mm延長することにより2ランク上の席居住性を実現するとともに、1.5Lエンジンと高出力モーター内蔵の7速DCTを組み合わせによる満足のゆく走りと良好な実用燃費を併せ持つホンダ唯一のコンパクトセダンで、ハイブリッド仕様のみだ。一方のルノー ルーテシア ゼン(0.9Lターボ)は、ルーテシア(欧州名はクリオ)の魅力的な内外装デザインをそのままに、3気筒エンジンを搭載、不足のない軽快な走りと優れた燃費(実測は出来ていないが)を208万円で提供してくれる輸入車市場の新しいドアを開くクルマだ。

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ホンダ グレイス

・試乗車グレード LX
・全長 4,440mm
・全幅 1,695mm
・全高 1,475mm
・ホイールベース 2,600mm
・車両重量 1,180kg
・エンジン 水冷4気筒DOHC
・排気量 1,496cc
・圧縮比 13.5
・エンジン最高出力 110ps(81kW)/6,000rpm
・エンジン最大トルク 13.7kgm(134N・m)/5,000rpm
・モーター最高出力 29.5ps(22kW)/6,000rpm
・モーター最大トルク 16.3kgm(160N・m)/0~1,313rpm
・変速機 7速DCT
・タイヤ 185/60R15
・燃料消費率 JC08モード燃費 34.4km/L
・試乗車車両本体価格 2,040,000円(消費税、有料色込)

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商品コンセプト
グレイスはフィットのプラットフォームを活用しつつホイールベースを70mm延長することによりアコード並みの後席居住性を実現、シビックセダン、フィットアリアなき後のホンダ唯一のコンパクトセダンだ。エンジンとハイブリッドシステムはフィットと同じアトキンソンサイクルの1.5Lエンジンと高出力モーター内蔵の7速DCTを組み合させたもので、ホンダフィットの燃費がトヨタアクアを上回っているため、今回の実測燃費の計測が非常に楽しみだった。

実測燃費と走り
その実測燃費はどうだったろう? 冬季ゆえにエアコンはほとんど作動しないという条件下で、同時評価のデミオディーゼルが25.6km/Lというハイブリッド並みの燃費を記録したことは前報でご報告したが、グレイスは、これまでの車評コースで評価した中で最良の実測燃費だった新型プリウスの25.2km/Lを上回る28km/ /Lを記録した。(カタログ値は34.4km/L) 車載メーターによる私の運転時の燃費値は、高速セクションではデミオが30.0、グレイスが29.3と非常に近似していたが、市街地ではデミオ17.6、グレイス20.0とグレイスに軍配が上がった。

グレイスの走りは、中高速でこそデミオディーゼルにかなわないが、総じて十分満足のゆくものだ。高出力モーター内蔵の7速DCTを組み合わせているため、EV発進が可能で、この新しい1モーターシステムが市街地での燃費にも貢献していることは間違いない。フィットとグレイスはいずれも同クラスのトヨタハイブリッド車の燃費を追い越したが、トヨタは今年中に40km/Lをこえる燃費を実現するという予測もあり、軽自動車を含む燃費競争はますます激しさを増すだろう。ただし「カタログ燃費ではなく、実用燃費こそ大切」という私の視点から、今後も各車の「実用燃費」を厳しく見極めてゆきたい。

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外観スタイル
ホンダグレイスの外観スタイルはどうだろう?私には新型フィットの外観デザイン、中でもフロント、リアの下部にあるエアダクト風の開口、サイドのキャラクターライン、テールランプまわりなどの造形は「彫刻的な美しさ」を感じられるものではなく、「いまだになじめない」というのが正直な印象だ。フィットよりもグレイスの外観スタイルの方が良いが、それでももう少し「面による質感の作りこみ」に力を入れてほしいところだ。現状では「世界に誇れる洗練された外観スタイル」とは言い難い。

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内装デザインと居住性
グレイスの内装デザインはシンプルかつ造形的にも好感が持てるもので、質感も悪くない。また居住性、特に後席の居住性は、文句の言いようもないレベルだ。フィットのセンタータンクレイアウト(前席の下に燃料タンクを配置)を踏襲しつつ、ホイールベースを70mm延長したことにより、アコード並みの後席足元スペースが確保され、シートも前後ともコンパクトセダンとは思えぬほどのサイズ感、着座感を実現している。フィットのようなリアシートクッションの立ち上げ機能はないが、リチュームイオンバッテリー内蔵IPU(インテリジェント・パワー・ユニット)をトランク下に収納、アクセラハイブリッドセダンやカローラアクシオハイブリッドなどとは異なり6:4で後席シートバックを倒せるトランクスルー機能があるのはうれしい。

ハンドリング、乗り心地など
ハンドリングと乗り心地は、空気圧設定も過度でなく(F:220kPa、R:210kPa)ダンパーの動きもよく、市街地を含む低速領域ではなかなかのものだ。ただし高速直進時のセンターフィールとそこから小さい舵角を与えて場合のステアリング・ハンドリングは、デミオの方が上で、その条件下での乗り心地ももう一歩だ。また市街地走行時のブレーキのコントロール性はかなり神経質で、エコタイヤに起因してかロードノイズももう一歩だ。

今後の販売動向に注目
ホンダグレイスを一言でいえば、居住性、実測燃費、走りの面で魅力的なセダンに仕上がっており、シビックセダン、フィットアリアなきあとのホンダコンパクトセダンだが、近年セダン離れの著しい日本市場において果たして目標とする月販3,000台の販売実績を継続して達成できるか今後の販売動向に注目したい。

■ホンダ グレイスの+と-
+2クラスは上の室内居住性
+素晴らしい実測燃費と満足のゆく走り
+快適な前後シート
-彫刻的な美しさにかける外観
-高速直進時のステアリングセンター付近のフィール
-市街地でのブレーキのコントロール性


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ルノー ルーテシア

・試乗車グレード ゼン(0.9Lターボ)
・全長 4,095 mm
・全幅 1,750mm
・全高 1,445mm
・ホイールベース 2,600mm
・車両重量 1,130kg
・エンジン 直列3気筒DOHC12ターボチャージャー付き
・排気量 897cc
・圧縮比 9.5
・最高出力 90ps(66kW)/5,250rpm
・最大トルク 13.8kgm(135N・m)/1,500-2,500rpm
・変速機 5速MT
・タイヤ 195/55R16
・燃料消費率 JC08モード燃費 
・試乗車車両本体価格 2,080,000円(消費税)

商品コンセプト
ルノールーテシア(欧州名はクリオ)は欧州市場においてVWゴルフ、フォードフィエスタにつぐ販売実績を残しているモデルで、ルノーの新デザイン戦略「サイクル・オブ・ライフ」のもとで開発された魅力的なコンパクトカーだ。今回追加されたルーテシア ゼン(0.9Lターボ)はこれまでのルーテシア ゼン(1.2L)の4気筒ターボエンジンに代わり、同じボア・ストロークの3気筒ターボエンジンを搭載、価格も208万円におさえられている。ただし変速機は5速MTのみだ。生産はニッサンとのジョイントのトルコの工場で行われており、日本流「カイゼン」も随所に生かされているという。

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外観スタイル
新型ルーテシアのデザインはローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏(かつてフォードからマツダにデザイン本部長として出向し、現在はルノーのデザイン担当副社長)の指揮によるもので、肉体美と高揚感を誇るコンセプトカー「デジール」から進化させたという官能的な曲面にあふれた魅力的なデザインだ。5ドアハッチバックながら、3ドアと見間違えるようなデザインになっているのも興味深い。

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内装デザイン、居住性
内装デザインも魅力的だ。メーター回りのデザインはドイツ車的なメーターとは一線を画すもので、インパネのデザイン、下半分にプラスティックを使ったステアリングホイールの見栄え、触感なども悪くない。NAVI装着モデルではインパネセンターパネルの厚み(前後長)が大きくなる。後席スペースはぎりぎりだが、ラッゲージ用にそれなりのスペースはあり、総じてファミリーカーとしてまず不足のないサイズといっていいだろう。フロントバケットシート、リアシートの着座感、ホールド感も良好だ。

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性能、走り感
0.9Lの3気筒エンジンは新規開発で、出力は90馬力、最高トルクは135N・m/2,500rpmと不足なく、1,650rpmで最高トルクの90%が得られる上に、車両重量も1.2Lモデルより60kg軽い1,130kgに収まっているため、発進性も含めて日本的な低速の多い走行条件下でも全く不足のない走りを提供してくれるのがうれしい。アイドルストップ機能が装着されるとともに、走行中の3気筒の振動もほとんど気にならない。燃費は計測できていないが、ECOモードもあるのでそれなりのレベルが期待できそうだ。機会があれば是非実測燃費を計測してみたい。

ハンドリングと乗り心地
足回りは1.2Lのゼンと基本的に同じで、タイヤサイズも同じ(195/55R16)だ。都内の限られた条件下での試乗だったが、なかなかの操安性と不満のない乗り心地だった。

輸入車市場の新しいドアを開けるか
官能的で、遊び心や質感を備えた魅力的な内外装デザインと不足のない走り、ハンドリング、乗り心地も備えた、多くのドイツ車や日本車とは一味違うクルマだ。価格も208万円と決して高くなく、満足のゆく国産コンパクトカーが少ない中で輸入車市場の新しいドアを開くクルマになれるかどうか興味深い。ただし5速MTしかないことは足かせになりそうだ。

■ルノー ルーテシア ゼン(0.9Lターボ)の+と-
+官能的で魅力的な外観スタイル
+魅力的な内装デザイン
+0.9Lながら全く不足のない走り
-5速MTしかない変速機

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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