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第50回 ダイハツコペン
2014.8. 5

第47回の車評オンラインでは「ふくらむ軽スポーツへの期待」というタイトルで、お台場で行われたダイハツコペンの発表前の技術説明会と、ジムカーナ的な条件での試乗の印象、更には軽スポーツへの期待などをご報告したが、今回は6月下旬の発表後小田原をベースに行われた試乗会での印象、ならびにデザインに関する印象他をご報告したい。一言で言えば、一般的な走行条件のもとでも走らせることが非常に楽しい小型スポーツカーに仕上がっており、また自分らしさを表現できるクルマの実現に向けたダイハツ関係者の熱意には頭がさがるものがある。Love Local by Copenをキーワードにお客様とのコミュニケーションを深めるための地域に密着した営業活動にも力を入れるとのこと、走りを楽しむイベントの開催にも是非注力して、他社の軽スポーツカーも巻き込みながらクルマ離れが進んでいる今日のユーザーを再びひきつけることを期待したい。

・試乗車 ダイハツコペン 
・グレード ローブ
・全長 3,395mm
・全幅 1,475mm
・全高 1,280mm
・ホイールベース 2,230mm
・車両重量 850kg (5MT)、870kg (CVT)
・エンジン 水冷直列3気筒12バルブDOHCターボ
・排気量 658cc
・圧縮比 9.5
・最高出力 64ps(47kW)/6,400rpm
・最大トルク 9.4kgm(92N・m)/3,200rpm
・変速機 5MT、CVT
・タイヤ 165/50R16
・燃料消費率 JC08モード燃費 22.2km/L(5MT)、25.2km/L(CVT)
・車両本体価格 1,819,200円(5MT)、1,798,200円(CVT)

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新型コペンの概要
第47回の車評オンラインと一部重複するが、もう一度新型コペンを簡単に要約しておこう。スポーツカーに限らず、望ましい車両の運動特性や質感の高い走りの実現のために、最も大切な要件の一つが車体剛性の確保にあることは言うまでもないが、オープンカーにおける車体剛性の確保は決して容易ではない。新型コペンではミライースのモノコックフレームを活用しつつD-フレームと呼ぶ新しい概念の骨格構造を採用、ボディー剛性を骨格のみで確保することにより、旧型コペンに比べて何と3倍もの上下曲げ剛性、1.5倍のねじり剛性を実現したという。小田原をベースにしたトップダウンの(ルーフを格納した)状態での試乗でも、十分な車体剛性とそれに起因した望ましい運動特性を体感することが出来た。「車評50」で評価した旧型コペンでは顕著だった車体振動も大幅に改善されている。

またこのD-フレームのおかげで、ダイハツが「ドレスフォーメーション」と呼ぶ、外板の着せ替えが簡単に行えることは市場拡大の上で興味あるポイントなるだろう。車両重量は、ダイハツ初の樹脂燃料タンクも採用されているが、商品性向上、操安性、乗り心地向上のための車体剛性強度の確保などにも起因し旧型比約20kgアップしている。

エンジンは低速領域で高いトルクを発揮するDVVT付き3気筒ターボエンジンで、アクセルレスポンスも良好だ。変速機は7速CVTと、5速MTを設定、シフトはいずれもスムーズで、動力性能も不足のないレベルに仕上がっている。マフラーの構造も改良されており、トップダウンの状態でのエキゾーストサウンドはなかなか気持ち良い。旧型コペン4AT車の車評コースにおける実測燃費は10km/Lを下回ったが、新型コペンのカタログ燃費はCVT装着車が25.2、5MT車が22.2km/Lとなっており、実測燃費の大幅な改善が期待できそうだ。

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軽とは思えない走り
2014年6月の青海臨時駐車場におけるパイロンを使用してコースを設定したジムカーナ的なイベントでの試乗の印象は、「え!これがFF? といえるほどアンダーステアが気にならず、またアクセル、ステアリング、ブレーキ操作に対してクルマがビビッドに追従してくれる上に、動力性能も満足ゆくもので、旧型コペンからの大きな進化に感銘した」と述べたが、今回の一般公道上での試乗では走りの魅力が一段と引き立った。

高速直進性もよく高速道路の走行に全く不満はなかったが、車体剛性の高さに加えて、基本的にはムーヴ、タントのサスペンションを活用しつつ、サスペンション剛性やロール剛性が最適化されたことにより、我々が選択した大磯周辺のワインディングの続く一般道での走りは実に楽しく、乗り心地もぎりぎりだが許容できるレベルだった。アンダーステアが全く気にならず、リアも実によく追従、軽快に動き、ダイハツが目指したという「接地感、フラット感」、「低慣性による一体感」、「懐の深い操る感覚」をそのまま実感することができた。

動力性能面では、今回は天候の都合で箱根ヘは足を向けなかったので箱根の登坂路での走りは検証できなかったが、高速道路、一般道では、DVVT付き3気筒ターボエンジンの中低速トルクの高さを存分に活用した非常に気持ちの良い走りを味わうことが出来た。変速機は5速MTも悪くないが、私が選択するならマニュアルシフトモード付きの7速CVTとなりそうだ。遠からずホンダS660、あるいは次世代ロードスターの1.5L自然吸気エンジンなどがコペンのあとにどのように登場してくるか、ますます楽しみでならない。ハイスピードジムカーナなどがこのクルマを楽しく走らせるシーンのひとつだと確信するので、後述するがダイハツチャレンジカップを是非再興するチャンスではないかと思っている。

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魅力的な内外装デザイン
昨年の東京モーターショーに展示されたモデルと比べて、ドアミラー、ドアハンドル、フォグランプ周辺のデザインを除きほとんど同一だが、自然光のもとでみる新型コペンは、プラスティック外板ならではの、彫が深く、質感も高い造形に仕上がっていることが確認出来た。ドア周り、リアクォーター、テールランプを含むリアの造形はなかなか魅力的だ。唯一気になるのはフロントまわりの造形で、ホンダS660が軽自動車の全幅の狭さを少しでも払しょくすべく精いっぱいフロントの幅感を感じさせるデザインを採用しているのに対して幅狭さを感じてしまうのが残念だ。内装のデザインは非常にオーソドックスで、とりたててスポーティーと言えるものではないが、質感は不満のないレベルに仕上がっている。

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新型コペンには従来のコペンに装着されていたRHT(リトラクタブルハードトップ)が継承されている。このRHTは開閉が約20秒で行える質感の高いもので、コペンの大きな魅力点の一つだ。閉めた場合の車体剛性へ効果も少なくないが、新型コペンの場合はオープン状態でも非常に優れた車体剛性が確保されていることは前述の通りだ。


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ドレスフォーメーションへの提案
「クルマは購入後のデザイン変更が難しいという固定概念を覆し、購入後でもお客様の嗜好に合わせたデザイン変更を可能にした」という「ドレスフォーメーション」と呼ぶアイディアは面白いが、一方で200万円近い商品の購入に際しては初めから十分に気に入った外観デザインであることが肝要であるとともに、合計で13個もの樹脂パーツを交換するとなるとそのコストがこの企画のネックになるかもしれない。更に外した外板を自宅に保管することは容易ではないはずで、外したパーツの管理や、パーツのコストに関してもう少し具体的な形でプレゼンテーションして欲しかった。フロント周りを除き前述のように非常に魅力的な造形がすでに実現されている量産車の外板を廃棄(?)してまで、果たしてどのくらいの数の顧客が「ドレスフォーメーション」による外板の変更を行うかは興味深いところだ。

一方でフロント周りの幾種類もの魅力的なアフターマーケットパネルが市場に出てくることへの期待は大きく、私ならきっとフロントフェースのみを最も好みに合ったものに入れ替えるという選択をするだろう。いっそのことダイハツが鉄板製のドア、ヘッドライト、テールランプなどはそのままに、プラスティック外板を装着しないモデルを設定、用品メーカーむけに発売し、用品メーカー独自の外板をまとったモデルが市場に出てくることが可能となるならば、「ドレスフォーメーション」は面白い展開を見せるかもしれない。

チャレンジカップの再現を望む
かつてダイハツは年間20回、2000人超の参加者を得ながらダイハツチャレンジカップと呼ぶジムカーナ大会を北海道から沖縄まで全国展開していた。何年か前に私も群馬でのイベントに参考出走させてもらったことがあるが、関西、中国地方からの人たちも含む200人ものダイハツファンが参加、5000円という参加費用で、一日に4本のジムカーナ走行を行い、老若男女を問わず楽しんでいるのを見て心から嬉しくなった。

ジムカーナにはレーシングサーキットは不要で、大きな駐車場やドライビングスクールのコースなどを利用して開催することができる上に、運転技量の向上にも大変有効で、リスクも低く、日本にもっともっと定着してほしい入門編モータースポーツだ。アメリカではオートクロスと呼ばれ、野球場の駐車場などを利用して各地で行われており、90年代のアメリカ在勤時代には、SCCA(スポーツカークラブオブアメリカ)主催のローカルイベントに普段通勤に使っているロードスターで参加、わずか20~30ドルという安い参加費用で楽しい一日を何回も過ごすことが出来た。

ダイハツチャレンジカップは、数年前に理由は不明だが突然中止されてしまたったのが残念で仕方なかったが、新型コペンの導入の機会にLove Local by Copenの一環として、各地で販売店を巻き込みながら是非再現してほしいと思っている。女性を中心にしたクラスや高齢者クラスなども設定、ダイハツ以外の軽スポーツも参加できるイベントにすればダイハツのイメージアップにもつながるのではないだろうか?これは他メーカーも同様で、新型ロードスターを遠からず導入するマツダもその機会をとらえて是非とも安価に気軽に参加できるマツダ版チャレンジカップを実現してほしい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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