三樹書房
トップページヘ
syahyo
第49回 マツダアクセラスポーツXD
2014.6.27

アクセラのディーゼル版には非常に興味がありながらこれまで試乗の機会をつくれなかったが、今回6MTモデルの評価のチャンスに恵まれたのでご報告したい。2.2Lディーゼルを搭載したアクセラスポーツXDの動力性能は、4L V8ガソリンエンジンに匹敵する最高トルクにも起因し、下手なスポーツカーも真っ青なレベルで、実測燃費も1.5Lのガソリンエンジンを上回った。軽油とガソリンの価格差により、燃料コストはハイブリッドといいとこ勝負になりそうだ。走りに加えて内外装デザイン、ハンドリングを含むビークルダイナミックスなど魅力あふれる商品に仕上がっていることが確認できたが、ハイブリッドとのバッティングを避けるためか、シリーズ最上級車種として位置づけられ、税込価格が300万円を超えるので気軽におすすめするわけにはいかない。一方で間もなく導入される1.5Lディーゼル搭載のデミオへの期待がますます大きくなった。

04-dai4901.jpg

・試乗車 マツダアクセラスポーツXD
・グレード XD
・全長 4,460mm
・全幅 1,795mm
・全高 1,470mm
・ホイールベース 2,700mm
・車両重量 1,430kg
・エンジン SKYACTIV-D2.2(直列4気筒DOHC 16バルブ直噴ターボディーゼル)
・排気量 2,118cc
・圧縮比 14.0
・最高出力 175ps(129kW)/4,500rpm
・最大トルク 42.8kgm(420N・m)/2,000rpm
・変速機 SKYACTIV-MT(6MT)
・タイヤ 215/45R18
・燃料消費率 JC08モード燃費 21.4km/L
・車両本体価格 3,121,200円 (特別塗装色代54,000円を含む)
・オプション価格 32,400円(CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー)

04-dai4902.jpg

04-dai4903.jpg

04-dai4904.jpg

04-dai4905.jpg

04-dai4906.jpg

04-dai4907.jpg

SKYACTIV-D& SKYACTIV-MT
ここでもう一度SKYACTIV-Dを総括しておくと、『14.0 という世界一低い圧縮比により、高価な後処理装置なしで、世界各地の厳しい排気ガス規制をクリアーするだけでなく燃費も大幅に改善、加えて低速から高速までの胸のすく走りが実現した新世代のディーゼルエンジン』だ。低圧縮比にするとNOxガスや煤の発生量が少なくなり高価な後処理システムが不要となり効率も向上するのに、これまでそれが実現出来なかったのは、低温時の始動性に問題が生じることと、暖機運転中の圧縮温度、圧力不足により失火が発生することだったという。これらの問題を克服したのが、1)マルチホールインジェクター、2)エッグシェイプピストン、3)排気可変バルブリフト機能だ。

新開発のマルチホールインジェクターによる精密な噴射制御とセラミックグロープラグにより低温始動性が確保されるとともに、インジェクターから噴射された燃料を勢いよく燃焼室内に広げるのに貢献しているのが中央部の盛り上がったエッグシェイプピストンだ。加えて暖気中の失火の制御に貢献しているのが「排気可変バルブ機構」で、これにより着火の安定性が向上したという。低圧縮比化は軽量化と機械抵抗の低減にも貢献、従来の2.2Lディーゼルエンジンに比べて42kgもの軽量化に成功、機械抵抗も大幅に低減したとのこと。そして大小2個のターボチャージャーを運転領域によって使い分ける2ステージターボチャージャー、アイドルストップ機構を採用、低圧縮との相乗効果により排気ガスのクリーン化、力強い走り、燃費改善が実現した。最高トルクは42.8kgm、JC08モード燃費は21.4km/Lとアクセラシリーズ中ベストだ。加えて、レッドゾーンが5,200rpmからというのもうれしい。加えてアイドルストップ後の再始動の早さと振動、騒音の少なさは、既存のクリーンディーゼルの中でも突出したレベルと言っていいだろう。

SKYACTIV-MTと呼ぶ6速マニュアルトランスミッション(ディーゼルエンジン車用の3軸の大型トランスミッション)も決して悪くはないが、前回評価した1.5Lガソリン車のマニュアルトランスミッション(2軸の中型)と比較すると、シフトストローク、操作力、節度感、吸い込まれ感などの面で一歩及ばないと感じた。一方で下の写真にあるように、ギヤシフトインディケーターが燃費を配慮した場合にどのギヤに入れるべきかを適切に知らせてくれる。

走りと実用燃費
アクセラスポーツXDの加速は、42.8kgm という1.5Lのガソリンエンジンの3倍近いトルクにも起因し胸のすくものだ。ディーゼルエンジンゆえに低速トルクが非常に豊かで、通常は1000rpm強の回転領域で十分に走れるが、その気になれば5,500rpm近くまでストレスなしに回転が上昇するのは実に爽快で、走りに関しては文句の言いようがない。アイドリングを除きほとんどエンジン騒音が気にならないのもいい。

今回最も興味があったのは実用燃費だ。満タン法で計測した実用燃費は、三崎港往復と都内走行を合わせた、高速道路走行と市街地がほぼ50:50の298kmの走行で15.8km/L、燃料代はわずか2600円ちょっとだった。市街地のみの場合の燃費は13~14km/L、90km/h前後での高速走行時には22~23km/Lという数値となった。ちなみに過日評価したアクセラスポーツ15Sの実測燃費は同じく高速道路走行と市街地がほぼ50:50の条件下で15.1km/Lだった。JC08モードの燃費は、XDが21.4、15Sが19.2km/Lなので、1.5Lガソリンエンジン車の燃費ををほとんどの条件下で上回るというのは大変うれしいし、より軽量なデミオに搭載される1.5Lディーゼルの実用燃費と燃料代への期待はいやが上にも高まってくる。

もう一点言及しておきたいのが、15Sでもふれたヒルローンチアシストというブレーキホールド機能だ。低速トルクの高いディーゼルの場合発進がさらに容易であり、MT車の運転にあまり慣れていないユーザー層にも大変うれしい装備となるだろう。

ハンドリング・乗り心地・振動・騒音
SKYACTIV-CHASSISと呼ばれるフロントのマクファーソンストラットとリアのマルチリンクサスペンション、軽量かつ剛性の高いボディーをベースに優れた接地感とリニアなフィードバック感がつくりこまれおり、高速時やコーナリング時のハンドリングが大変好ましいものに仕上がっている。ただしXDには215/45R18のタイヤが装着されており、市街地の凹凸路を低速で走る際の乗り心地はかなりごつごつ感が残り、今一歩の改善が必要だ。18インチタイヤはやはり「オーバーサイズタイヤシンドローム」と言わざるを得ず、摩耗したタイヤの交換や冬用タイヤも考えるとき、アクセラクラスならせめて17インチで抑えてほしいところだ。加えて15Sでも述べたが、是非改善してほしいのがロードノイズだ。低速から高速まで、粗粒路はもちろん、それ以外の路面でもロードノイズが気になるからだ。これを改善することによりアクセラの商品性はかなり向上することは間違いない。

04-dai4908.jpg

04-dai4909.jpg

04-dai4910.jpg

04-dai4911.jpg

04-dai4912.jpg
 
04-dai4913.jpg 

04-dai4914.jpg 

外観スタイル
内外装デザインに関してはすでに報告したアクセラスポーツ15Sと重複するので、簡単にまとめると、「魂動」をテーマにしたアクセラの外観スタイルは躍動的で、力強く、魅力的だ。マツダがシグネチャーウィングとよぶフロントグリルは、存在感、躍動感、質感をうまく表現しており、当初は違和感のあったグリル内のライセンスプレートは見慣れるに従い許容できるようになった。セダンとHBでリアドアを共通化したスピード感、リズミカルのあるサイドビューも非常に好感がもてる。

内装デザイン・パッケージングと使い勝手
インパネデザインはシンプルだが開放感あふれたもので、ペダル類がドライバーに正対することにより一体感を演出している。細部のクローム調のトリムやHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)システムの見た目も質感に貢献しており、オーディオのダイヤル式ボリューム調整を含むコントロール系の操作性も良好だ。ディーゼル仕様車には触感が一クラス上の革巻きステアリングホイールが採用されているが、欲を言えば他のグレードにも採用してほしいところだ。後席居住性はぎりぎりOKといえるレベルだが、トランクスペースはこのクラスとしては不足のないもので、フロントシートを前方にスライドすれば大の男がゆったりと寝られるスペースに変身するのもうれしい。ただしリアシートのアームレストをトランクスルー方式にしてほしいと思うのは私だけではないはずで、スキー道具などを積み込む際などには必ず重宝すると思うからだ。


以上のようにアクセラスポーツXDは総じて大変魅力的なクルマに仕上がっているが、シリーズの中では前述の価格にも起因し私の選択は15Sだ。ただし、ディーゼルが欲しいがアテンザやCX-5では大きすぎる、デミオでは小さすぎるというユーザー層には自信を持ってお勧めできるモデルだ。繰り返しになるが次期デミオ、さらにはそのプラットフォームを活用したCX-3のディーゼル仕様への期待が大きく膨らむ今回の試乗評価結果となった。

マツダにはぜひ『新スポーツビークル戦略』の提案を
SKYACTIV-Dはマツダのブランドイメージの向上と販売実績の向上にとって貴重な材料となることは疑問の余地がないが、ここで一点マツダに提案したいのは、『マツダはSKYACTIV-Dを新スポーツビークル戦略の中核に位置づけ、乗ることの楽しい新しいスポーツビークル群を提供する』という明確なメッセージの発信だ。アテンザやアクセラをみてみてもディーゼルバージョンが必らずしもそのような位置づけになっているとは言い難いので、デミオ、CX-3などを通じて『新スポーツビークル』と呼ぶにふさわしいグレードの設定をしてはどうか、さらにはロードスターのディーゼルバージョンを含むSKYACTIV-Dを活用した新しいスポーツカーの提案を是非検討してみてほしい。

マツダアクセラスポーツXDの+と-
+スポーツカーも真っ青な動力性能
+満足のゆく実用燃費
+走ることへの満足感
-ロードノイズ
-低速時の乗り心地
-斜め後方視界


このページのトップヘ
BACK NUMBER

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第128回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 ポール・フレールさん

第127回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 大橋孝至さん

第126回 コンシューマーレポート「最良のクルマをつくるブランドランキング」

第125回 三樹書房ファンブック創刊号FD RX-7

第124回 日本自動車殿堂入りされた伊藤修令氏とR32スカイラインGT-R

第123回 日本自動車殿堂(JAHFA)

第122回 コンシューマーレポート信頼性ランキング

第121回 マツダ MX-30

第120回 新型スズキハスラー

第119回 急速に拡大するクロスオーバーSUV市場

第118回 ダイハツTAFT

第117回 私の自動車史 その3 コスモスポーツの思い出

第116回 私の自動車史 その2 幼少~大学時代の二輪、四輪とのつながり

第115回 私の自動車史 その1 父の心を虜にしたMGK3マグネット

第114回 マツダ欧州レースの記録 (1968-1970) その2

第113回 マツダ欧州レースの記録 1968-1970 その1

第112回 私の心を捉えた輸入車(2020年JAIA試乗会)

第111回 東京オートサロンの魅力

第110回 RJC カーオブザイヤー

第109回 私の2019カーオブザイヤーマツダCX-30

第108回 大きな転換期を迎えた東京モーターショー

第107回 世界初の先進運転支援技術を搭載した新型スカイライン

第106回 新型ダイハツタントの商品開発

第105回 躍進するボルボ

第104回 伝記 ポール・フレール

第103回 BMW M850i xDrive Coupe

第102回 日産DAYZ

第101回 Consumer Reports

第100回 2019年JAIA試乗会

第99回 東京モーターショーの再興を願う

第98回 2019年次 RJCカーオブザイヤー

第97回 ニッサン セレナ e-POWER

第96回 クロスオーバーSUV

第95回 大幅改良版 マツダアテンザ

第94回 新型スズキジムニー(その2)

第93回 新型スズキジムニー

第92回 おめでとうトヨタさん! & RINKU 7 DAYレポート

第91回 名車 R32スカイラインGT-Rの開発

第90回 やすらかにおやすみ下さい 山本健一様(最終回)

第89回 安らかにおやすみ下さい 山本健一様(その3)

第88回 やすらかにおやすみください。山本健一様(その2)

第87回 ”やすらかにおやすみください。山本健一様”

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第86回 ルノールーテシア R.S.

第85回 光岡自動車

第84回 アウディQ2 1.4 TFSI

第83回 アバルト124スパイダー(ロードスターとの同時比較)

第82回 スズキワゴンRスティングレイ(ターボ)

第81回 最近の輸入車試乗記

第80回 マツダRX-7(ロータリーエンジンスポーツカーの開発物語)の再版によせて (後半その2)

第79回 RX-7開発物語再版に寄せて(後編その1)

第78回 RX-7開発物語の再版によせて(前編)

第77回 ダイハツムーヴキャンバス

第76回 ニッサン セレナ

第75回 PSAグループのクリーンディーゼルと308 SW Allure Blue HDi

第74回 マツダCX-5

第73回 多摩川スピードウェイ

第72回 ダイハツブーン CILQ (シルク)

第71回 アウディA4 セダン(2.0 TFSI)

第70回 マツダデミオ15MB

第69回 輸入車試乗会で印象に残った3台(BMW X1シリーズ、テスラモデルS P85D、VWゴルフオールトラック)

第68回 新型VW ゴルフトゥーラン

第67回 心を動かされた最近の輸入車3台

第66回 第44回東京モーターショー短評

第65回 ジャガーXE

第64回 スパ・ヒストリックカーレース

第63回 マツダロードスター

第62回 日産ヘリテージコレクション

第61回  りんくう7 DAY 2015

第60回 新型スズキアルト

第59 回 マツダCX-3

第58回 マツダアテンザワゴン、BMW 2シリーズ、シトロエングランドC4ピカソ

第57回 スバルレヴォーグ&キャデラックCTSプレミアム

第56回 ホンダ グレイス&ルノー ルーテシア ゼン

第55回 車評コースのご紹介とマツダデミオXD Touring

第54回 RJCカーオブザイヤー

第53回 スバルWRX S4

第52回 メルセデスベンツC200

第51回 スズキスイフトRS-DJE

第50回 ダイハツコペン

第49回 マツダアクセラスポーツXD

第48回 ホンダヴェゼルハイブリッド4WD

第47回 ふくらむ軽スポーツへの期待

第46回 マツダアクセラスポーツ15S

第45回  最近の輸入車試乗記

第44回 スズキハスラー

論評29 東京モーターショーへの苦言

第43回 ルノールーテシアR.S.

論評28 圧巻フランクフルトショー

論評27 ルマン90周年イベント

第42回 ボルボV40

第41回 ゴルフⅦ

第40回 三菱eKワゴン

論評26 コンシューマーレポート(2)

論評25  コンシューマーレポート(1)

第39回  ダイハツムーヴ

第38回 第33回輸入車試乗会

第37回 マツダアテンザセダン

第36回 ホンダN-ONE

第35回 スズキワゴンR

第34回 フォルクスワーゲン「up!」

第33回 アウディA1スポーツバック

第32回 BRZ、ロードスター、スイフトスポーツ比較試乗記

第31回 シトロエンDS5

第30回 スバルBRZ

第29回 スズキスイフトスポーツ

第28回 SKYACTIV-D搭載のマツダCX-5

論評24   新世代ディーゼル SKYACTIV-D

第27回 輸入車試乗会 

論評23 モーターショーで興味を抱いた5台

論評22 これでいいのか東京モーターショー

論評21 日本車の生き残りをかけて

執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

関連書籍
ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
トップページヘ