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第47回 ふくらむ軽スポーツへの期待
2014.4.28

昨年のフランクフルトモーターショーでスズキの軽エンジンを搭載したケーターハム7が、前回の東京モーターショーでダイハツコペン、ホンダS660の軽スポーツがそれぞれデビュー、軽スポーツへの期待が盛り上がりつつある中で、4月の初めにダイハツがお台場で新型コペンの技術説明と事前試乗イベントを開催してくれた。限られた走行条件だが、そこでの新型コペンの印象を一言でいえば、旧型コペンから大きく前進した、FFを感じさせない大変ファンto ドライブなライトウェイトスポーツに仕上がっており、導入が非常に楽しみだ。ミッドシップのホンダS660、超軽量FRのケーターハム7も含めて、最近販売が途絶えていた軽スポーツ市場の再活性化を期待するとともに、次世代ロードスターなども含めてスポーツカーを取り巻く話題の高揚と各種プログラムの拡大、更には若者のクルマ離れの改善に期待したい。

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走りの印象を一言でいえば?
6月の発表に先立ってお台場での技術説明会とリンクして行なわれた試乗会は、青海臨時駐車場にパイロンを使用してコースを設定したジムカーナ的なイベントだった。私の試乗日は完全なウェット路面だったので、正直言ってFFでどのような走りをするか大いに関心があったが、走り出してみると、「え!これがFF?」といえるほどアンダーステアが気にならず、またアクセル、ステアリング、ブレーキ操作に対してクルマがビビッドに追従してくれる上に、動力性能も満足ゆくもので、旧型コペンからの大きな進化に感銘した。限られた試乗条件だが乗り心地も悪くなかった。6月に予定されている正式な市場導入とその後の総合評価が今から待ち遠しく、また遠からずホンダS660、ケーターハム7、新型ロードスターなどとの同時比較も是非実現したい。

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新型コペンとはどんなクルマ?
今回行なわれた技術説明と展示も大変興味深いものだった。まず新型コペンが目指したのは「高い走行性能に裏付けされた、誰が乗っても楽しいクルマ」、「"クルマは楽しい"の入門編」とのことで、そのために新しいD-フレームと呼ぶ新骨格(上記写真の3,4枚目)が採用されたが、これはミライースのモノコックフレームを活用しつつ、写真のような新しい概念の骨格構造を作り上げ、旧型コペン比で何と3倍(!)の上下曲げ剛性、1.5倍のねじり剛性を実現したという。今回の試乗時の印象はまさにそれを裏付けたものと言えそうだし、旧型コペンの弱点の一つだった車体振動も大幅に改善されていた。

またこの新しい骨格をベースに、顧客の嗜好に合わせて着せ替え可能な「ドレスフォーメーション」とよぶ外板パーツを準備するという。準備される外板パーツが前回のモーターショーで行なわれたデモンストレーションと同様のものかどうかは定かではなく、また一旦購入した人が、「着せ替え人形」に果たしてどの程度お金を払ってくれるかは予測が難しいところだが、発想は斬新だし、ユーザー自身で外板を取り換えることもそれほど難しくないという。従来のコペンの象徴でもあった約20秒で開閉可能な電動開閉式リトラクタブルハードトップが継承され、他社の軽スポーツとの差別化の一つの重要なポイントとなるだろう。

エンジンは従来の直列4気筒ターボに代えて、低速領域で高いトルクを発揮する直列3気筒ターボエンジンとなり、アクセルレスポンスも向上、変速機は変速レスポンスを改善した7速CVTと、細部のチューニングでシフト感覚を改善した5速MTを設定、お台場ではその両方に試乗することができたが、シフトはいずれも非常にスムーズで、動力性能も全く不足のないレベルに仕上がっていた。「車評50」で評価した旧型コペン4AT車の場合実測燃費は10km/Lを下回るものだったが、新型コペンの実測燃費は大幅な改善が期待できそうだ。またオープンカーとしての楽しいエキゾーストサウンドを実現するためにマフラーの構造も改良(上記最後の写真)、軽量化のためにダイハツ初の樹脂燃料タンクも採用されているが、車両重量は商品性向上、操安性、乗り心地向上のための車体剛性強度のアップにより旧型比で約20kgアップしているという。

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小型スポーツカーの歴史
ここで簡単に小型スポーツカーの歴史を振り返ってみよう。軽自動車の排気量が360ccだった時代の1962年東京モーターショーにホンダが展示したのがS360とS500だったが、S360 は商品化されることなく、S500が1963年10月に発売され、翌年にはS600へ、1966年1月にはS800へと進化してゆく。このSシリーズは車体寸法的には現在の軽自動車の枠に入るもので、累計生産台数は約26,000台だ。またトヨタがトヨタスポーツ800を発売したのが1965年3月で、生産中止となる1969年までに約3,000台が生産された。

国内専用ともいえる軽スポーツが初めて導入されたのは1991年5月のホンダビートで、1991年11月にはスズキカプチーノ、1992年10月にはマツダAZ-1と続くが、ライフサイクル中の累計販売台数はホンダビートが5年弱で約34,000台、スズキカプチーノが7年間で約27,000台、マツダAZ-1は2年間で4,000台弱とかなり限られたもので、いずれのモデルもビジネス的には大きなインパクトにはならなかったとみるべきだろう。そのような中で2002年に導入されたのが先代のダイハツコペンで、当初は総台数20,000台が一つの目標だったはずだが、約10年のライフサイクルを通じて国内で56,000台、海外市場向けも合わせると合計約66,000台と、当初計画を大きく上回る台数が生産された。

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ダイハツコペン以外の軽スポーツにも期待
最後にホンダS660、スズキの軽エンジンを搭載したケーターハム7にも簡単にふれておこう。ホンダS660のデビューは専門誌の予測によると、当初の予定より早まり2014年の9~10月ごろになる可能性もありそうで、注目に値するのはコペンのFFとは異なるミッドシップレイアウトであることと、その魅力的なデザインだ。量産車が前回の東京モーターショーに展示されたコンセプトカーの内外装デザインにどのくらい近いモデルになるかは大変興味深い。エンジンは直列3気筒ターボのようだ。一方のケーターハム7の最大の魅力は、FRレイアウトであることと、車両重量が500kgを下回ることであり、エンジンは直列3気筒ターボだ。出力は3車とも(国内では)64psだが、動力性能面ではケーターハム7がかなり優位になるはずだ。価格はダイハツコペン、ホンダS660はいずれも専門誌の予測によると180~200万円程度になりそうだが、輸入車とはいえケーターハム7は約350万円というのはちょっと残念で、せめて300万円は切ってほしかった。この3車に加えて新型ロードスターも遠からず導入されるはずであり、市場における小型スポーツに関する話題の高揚を期待するとともに、これらのクルマを楽しむための各種の楽しい走行イベントに対する各メーカーの注力にも期待したい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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車評 軽自動車編
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