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論評29 東京モーターショーへの苦言
2013.12.27

東京ビッグサイトに会場を移して2回目となる第43回東京モーターショーは11月23日から9日間一般公開された。1991年に200万人を超えた入場者は2009年には61万人と大幅にダウンしたが、前回は84万人、今回は90万人とやや持ち直した。「世界にまだない未来を競え」がテーマの今回は、「クルマの楽しさ、日本のモノづくりの底力の一端を、東京から国内外に発信できたと思う」という豊田章夫自動車工業会会長の談話にもあるように、情報の一端は発信できたと思うし、前回の多くの日本メーカーの展示に比べ明らかに改善されてはいた。しかし限定された商品や技術の展示、夢をかきたててくれるデザインやクルマの提案の少なさなど、世界に向けての情報発信、若者のクルマばなれへの対応としては決して満足のゆくものではなかった。以下「東京モーターショーへの苦言」というテーマで私の視点をシェアーしたい。

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事前イベント
モーターショーの行われない年のクルマへの関心の高揚を目指した2012年秋のお台場学園祭が掛け声こそ良かったものの、中身は何ともお粗末だったのに比較して、第43回東京モーターショーにさきがけて11月中旬お台場で行われた「お台場モーターフェス」のメインイベント「シルク・ド・モビ」(クルマとバイクのサーカス)と「モーターパレード」(お台場の公道をレーシングカーも交えて走行)はそれなりのイベントだったと思う。しかし事前のPR不足に起因してか、メインスタンドを埋めたのは2/3程度で、公道上の観客も非常に少なく、手間とコストに見合ったものとは決して言えないのが残念だ。同様なイベントを次回も行うのなら、内容の十分な検討、事前PRの徹底、新聞、TV、モーター誌など各種メディアとの共催などが必須だろう。唯一うれしかったのは、モーターパレードに出走した古屋国家公安委員長の、「公道でのレースを実現したい」、「交通取り締まりを真に意義のある取締りにしたい」という言葉だった。

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各社トップが一堂に会した「Mobilityscape Tokyo」は、国内外のプレス1000名を対象にモーターショープレスデー前日にプリンスタワーの大きな会場を使って行われた。自工会副会長会社(トヨタ、ホンダ、ニッサン、三菱、マツダ)の5名のトップによるスピーチ(各人の持ち時間はわずか3分!)が全て英語で行われたことは「世界に向けての情報発信」の一端と評価したいが、このイベントも、手間とコストに見合ったインパクトのあったとは言い難く、これら一連の事前イベントのあり方に関しては今回の反省も含めて関係者で徹底的に議論すべきだ。

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東京モーターショー全体に対する所感
一般公開初日の入場者は13万人を超えたようだが、会場のスペースが小さく人があふれて展示車もろくにみることができなかった。東西の会場が分断さていることによる無駄な人の流れなども含めて問題も多い。今回は会場の都合で、ロスアンジェルスモーターショー、広州国際モーターショーと日程が完全にダブったためか外国人記者の数が非常に少なかった上に、米国車やスーパーカーなどの展示がなかったことなども残念だ。

「世界にまだない未来を競え」をテーマに、クルマの楽しさ、日本のモノづくりの底力を国内外に発信したいという思いがあった割には、国内メーカーの展示はそれに十分対応したものとは言い難く、「論評28」でご紹介したフランクフルトショーに対するドイツメーカーの取り組みと予算のかけ方とは大きくかけ離れていた。これも多くの国内メーカーが東京モーターショーを「国内販売のための展示」と位置づけているからではないだろうか?国内販売が重要であることに議論の余地はないが、次回のショー開催にあたって各メーカー内はもちろん、自工会内でも東京モーターショーのあり方を徹底的に議論することが必要だと思う。

西展示場に設定された「Smart Mobility City 2013」は「くらしに、社会に、つながるクルマたち」がテーマで、新しい移動手段や、住宅、暮らし、社会とのつながりなどを模索した展示が行われたが、前回同様、未来のくらしや社会、さらにはクルマへの夢を与えてくれるものではなく、世界に向けての情報発信も非常に限られたものだったはずだ。サプライヤーブースも含めてむしろSAEショーに集約した方が良いのではないか?また些細なことではあるが、ステージイベントの一環としてアトリウムで行われた「日本カーオブザイヤー」の発表会などでは観客席まで音声が全く届かず、観客を無視したイベントといわれても仕方がない。

それにしても自工会が「成功裏に閉幕」と自画自賛し、メディアが「大成功」と持ち上げるのもいいが、日本自動車産業の繁栄継続を目指した世界に向けての情報発信の重要性がますます拡大する中で、もっと厳しい目で見ることが必要ではないだろうか。さもないと中国や欧州のモーターショーにますます水をあけられ、若者のクルマばなれが加速することは間違いない。日本に在住する友人の外国人モータージャーナリストの言葉「一般的にモーターショーでは500枚~600 枚の写真をとることが多いが今年のショーで撮ったのはわずか45枚、しかのその半数以上は二輪だった。」は今回のモーターショーの展示内容をいみじくも表しているといえよう。各社のクルマ好きや一般のクルマファン、さらには一部のモータージャーナリストなどを集めてチームを作り、早い段階から徹底的に議論してみてはどうだろうか?

国内各社の展示に対する寸評
以下は国内各社の展示に対する私の正直な感想だ。

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DAIHATSU
新型コペンの外板を着せ替え人形風に着せ替えをする実演がダイハツの目玉だった。ショーにおけるお客様の反応により今後の方針を決定するらしいが、ボディーパネルの脱着は、そのコストや意義を含めて私の目からは「?」マークを付けざるを得ない。一方で軽ながらミニバンも真っ青な室内空間をもつ「DECADECA」は早期の商品化を期待したいモデルの一台だ。また高価な金属を必要としない液体燃料電池技術に対する挑戦は興味深い。総じてダイハツの展示にはそれなりの評価を与えたい。

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HONDA
前回はブースが暗く平板で展示車両もわくわくとは程遠かったが、今回はS660 、NSXの2台のスポーツカー、VEZEL(ヴェゼル、フィットベースの小型SUV)、更にはN-WGN(Nワゴン)などそれなりのインパクトがあった。中でもS660は今回のショーの目玉といっても良く、休日にはクルマが見えないほど多くの人を引き付けていた。軽自動車の税金アップは残念だが、低迷しているスポーツカー市場の活性化、若者のクルマばなれへのブレーキに貢献することを期待したい。またNSXはアメリカがメイン市場となるのだろうが、3モーターによる走りは興味深い。VEZELは突出したデザインではないが、ハイブリッドバージョンもあり、価格も含めて魅力的な小型SUVだ。ただそれ以外の新技術提案という視点からの展示が少なかったのは残念だ。

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MAZDA
シックなブースとソウルレッドに統一した展示車両の組み合わせにより、フランクフルト、東京共「展示ブースの質感」では日本の他メーカーを圧倒していた。しかしショーの目玉はアクセラのCNG車のみ、それ以外はディーラーショールームでも見ることのできるモデルで、スカイアクティブを中心とした技術力の情報発信の場として全く活用されていなかったのが大変残念だ。次期ロードスターコンセプトモデルを展示するベストタイミングだったと思うし、アメリカのグランダムレースでシリーズ優勝したマツダ6とその量産スカイアクティブDベースのエンジンの展示がなかったのも、スカイアクティブエンジンPRの又とない機会だったので理解できない。更には一か月も待たずにプレスへのプレゼが行われたロータリーエンジンを活用したレンジエクステンダーにとっては絶好の舞台だったはずだ。

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MITSUBISHI
三菱自動車の業績はこのところ急速に改善されつつあり、PHEV技術の導入にも積極的だが、昨今の三菱車のデザインには納得できないものが多かった。そうした状況を打破するためか、展示の目玉は3台のデザインコンセプトカー(次世代パジェロ、小型SUV、ミニバンとSUVのクロスオーバー)だった。ただしいずれも単なるデザインコンセプトカーの域にとどまるとともに、次世代パジェロ(?)のデザインなどは正直言ってうなずけるものではなかった。小型SUVとミニバンとSUVのクロスオーバーは間もなく登場するモデルであって欲しかった。軽自動車はニッサンとの協業が有効に機能し、バリエーションも拡大しているが、「三菱は小型乗用車をギブアップするのだろうか」という疑念をいだかせる展示にも見えた。

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NISSAN
最近のニッサンの商品群はデザイン面を中心に私の心をとらえてくれるものが少ないが、今回の展示はそれを更にエスカレートさせるものとなった。「若者を中心としたユーザーが思い描いた」というIDX は、60年代を想起こそすれ未来を感じさせるものではなく、「超音速機からインスピレーションを得た」というBlade Gliderも将来のスポーツカーへの期待を抱かせてくれるものではなかった。直前に導入されたGT-Rもマイナーチェンジに過ぎず、新型エクストレイルと軽自動車DAYSのお披露目の場となったものの、ブースへの投入金額では日本メーカー中最大であったであろう今回のニッサンの展示車両にもの足らなさを感じた人は多かったのではないだろうか。「ニッサンの将来にむしろ不安を感じさせる展示だった」は言い過ぎだろうか?。

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SUBARU
スバルの最近の業績向上は著しく、中でもアメリカでの販売実績は目を見張るレベルだが、今回のスバルブースにもそれなりに新しい提案が展示されていた。まずはレガシイの大型化に伴う国内市場むけ最適サイズの新型車レヴォーグがお披露目された。デザインはかなり保守的だが、それなりに魅力を感じる小型車で、旧型レガシイオーナーの心をどの程度つかめるのか興味深い。コンセプトカーVIZIVはデザインコンセプトカーの域を出ていないが、クロススポーツデザインコンセプトはスポーツカーの今後のひとつのあり方を示しているともいえよう。BRZのコンポーネントを活用するため4WD化は簡単ではないだろうが、実用性も備えた新しいFRスポーツカーの提案とみれば、なかなか魅力ある商品となりそうだ。

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SUZUKI
スズキはメインスタンドに3台のコンセプトカーを展示していたが、それらは正直言って私には何のインパクトも与えてくれなかった。むしろ軽のクロスオーバー(ハスラー)、あるいは新型SUV iV-4の方が興味いモデルだった。メインスタンドにハスラーやiV-4を並べた方が良かったのではないか。残念だったのは、フランクフルトショーでスズキブースに並べられていたスズキの軽エンジンを搭載した軽スポーツ、ケーターハムスーパー7が展示されなかったことだ。たとえスズキの販売店で扱えないモデルであるにしても、ダイハツコペン、ホンダS660とは大きく異なるコンセプトで、軽スポーツへの関心が一段と盛り上がるだけでなく、スズキブースへの関心も大幅にアップできたはずだ。

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TOYOTA
最後はトヨタだが、前回同様トヨタが東京モーターショーをどのように位置づけているのかを問いたくなるような展示内容だった。燃料電池車、パーソナルモビリティーi-ROAD(三輪スクーター?)、JPN TAXIなどを中央ブースで移動展示していたが、これらを身近に見るためには長時間中央ブースの手すりぎわにとどまらなくてはならず、休日は身近に見ることは不可能に近かった。またそれらの展示車両は、トヨタの技術力や海外への情報発信にふさわしいものとは言い難く、「TOYOTOWN」をテーマにした展示も含めて広告代理店的発想といわれても仕方ないのでは?わずか16台という展示台数と来場者への配慮の足りない平面展示などは、二兆円を超える営業利益を出す世界ナンバー1の自動車会社の展示として納得できるものではなかった。

改善要望点
次回の東京モーターショーにむけてなすべき項目を以下列記してしめくくりたい。(順不同)
① 海外モーターショーとダブらない日程の設定
② 自工会としてのモーターショーのあり方に対する徹底的な議論
③ Smart Mobility City の今後のあり方に対する徹底的な議論
④ 事前イベントのあり方に対する検証
⑤ 各社ごとのモーターショーのあり方に対する徹底的な議論
⑥ サプライヤー展示のモーターショーからの分離
⑦ 来場者の立場に立った各社の展示やステージイベントの見直し
⑧ 高校生、大学生も含む学生の入場料の無料化の実現

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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