6回にわたったアルファロメオ・シリーズの最後を飾って、今回は素晴らしいスポーツカーとその一族の登場で締めくくりたい。
(01)<1967 Montreal Expo>
この車の位置づけはどこに置いたら良いのだろうか。元々はカナダの「モントリオール万博」に出展する為に造られた「ショー・モデル」だが、ベースは「ジュリア・スプリントGT」であり、3年後市販モデルとなった「モントリオール」から見れば「プロトタイプ」である。「ガンディーニ」のデザインによるベルトーネ社製だが、エンジンは4気筒1570cc 106hpとあり、ジュリア・スプリントGTのままである。
(01-1a)(01-1b) 1967 Montreal Expo (2001-05 アルファロメオ・ミュージアム)
市販車に較べるとヘッドライトの「まぶた」に相当するスリットが4つあり、Cピラーのスリットが一つ多く7つあったり、ドアハンドルがプッシュ・ボタンで、フェンダーに張り出しが全くない、など細かい相違が見られる。
(02)<1970-76 Montreal> (Type105.64)
1967年カナダ万博に展示された「モントリオール・エキスポ」をベースに、3年後登場したのがカタログ・モデルの「モントリオール」で、外観の細かい点を除いて、全体の印象はオリジナルのままだが、市販車とする為のセールス・ポイントとして、エンジンは当時活躍中の「ティーポ33」V8 DOHC 2998ccを2593cc、200hpにデチューンして搭載し、最高速度は220km/hとカタログ・モデル中最速だった。
(02-1a)(02-1b) 1971 Montreal (Type105.64) (1972-08 環状7号線、大原交差点付近)
国内で初めて見付けた「モントリオール」で、まさか日本に上陸しているとは信じられなかった。この当時の渋滞は最近よりはるかに酷いもので、殆ど進まない中ではスーパーカーでも動きが取れない。
(02-2a)(02-2b) 1971-76 Montreal (Type105.64) (2001-05 ブレシア・ドォーモ広場)
僕の持っている資料からは「モントリオール」の年式別の識別ができないので、街中で撮ったものの年式は特定出来ない。場所は車検場「ヴィットリア広場」に近い「ドゥオーモ広場」で17世紀の新ドゥオーモと12世紀の旧ドゥオーモと呼ばれる2つの教会がある。
(02-3a) 1971-76 Montreal (Type105.64) (2001-05 モンツァ・サーキット/イタリア)
「モントリオール」を最も印象付けるCピラーのスリットが強調されたアングルで、場所はF1レースで有名な「モンツァ・サーキット」だ。コース内には各所に駐車スペースがあり、コース外の広々したコンクリートの駐車場と違って、緑に覆われた木陰をピクニック気分で車を探して歩くのは最高だ。
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(03-1)<1967 Tipo33/2 Sport Prototipo (Periscopic)>
1960年代後半にはアルファロメオはTZ,TZ2で2リッター・クラスのレースを戦っていたが、ポルシェ904,906などミッドシップに対しては勝ち目がなく、1965年の4気筒1.6リッターエンジンをミッドシップに積んだプロトタイプを手始めに戦闘力のあるレーシングカーの開発を進めて来た。その結果1967年V8 DOHC 1995cc のエンジンを持つ「33/2」がスポーツ・プロトタイプとして発表された。この車はスパイダー・ボディで「ペリスコピック」と呼ばれた。形式名「33/2」の「2」は「セカンド・バージョン」ではなく、エンジンが「2リッター」を示しており、後年3リッターが登場すると「3」と変わる。
(03-1a)(03-1b) 1967 Tipo33/2 Sport Prototipo「Periscopic」 (2010-05 グッドウッド)
1960年代後半から70年代にかけて約10年、アルファロメオのレース活動の主役として活躍したティーポ33シリーズの最初のモデルで、よく知られている「ストラダーレ」に較べると丸みが目立つ。まだグリルはダミーではなく実際に空気を取り込み、ボンネットから抜いて居る。エンジンの冷却はドライバーの頭上のダクトから取り込んでいる。
(03-2)<1968 Tipo33/2 Spider Prototipo>
Tipo33は後に「デイトナ」と名付けられるクーペ・タイプで実力を発揮し軌道に乗ったわけだが、その橋渡しとして「デイトナ」のスパイダー・バージョンとも言えるのがこの車で、ボンネットにはポルシェ906や910のような空気取り入れ口が開けられている。同時期に造られたスパイダー・プロトタイプで「デイトナ」と同じ穴のないものも写真が残って居り、そちらが採用されたようだ。
(03-2a)(03-2b) 1968 Tipo33/2 Spide Prototipo (2010-07 グッドウッド/イギリス)
(03-3)<1968 Tipo33/2 Coupe"Daytona">
1967年スパイダー・ボディでデビューしたティーポ33は、空力特性に悩まされレースでの結果は残せなかった。翌1968年、スパイダーの改良と並行してクーペ・ボディを造りレースに参戦したところ緒戦の「デイトナ24時間」で1、2フィニッシュ、続く「タルガ・フローリオ」で2、3位、「ルマン24時間」でも4~6位となり、この年15のクラス優勝を獲得した。デビュー戦の栄誉を称えてこのタイプは「デイトナ」と名付けられた。
(03-3a)(03-3b) 1968 Tipo33/2 Coupe Daytona (2001-06 アルファロメオ・ミュージアム)
(03-4)<1968 Typo33/2 Coupe"LeMans">
「デイトナ」に較べると、テールがやや長く引き伸ばされて居るのはルマンの長いストレート対策で、他社の車にも多く見られる。ただこの緑色の垂直安定版は、一見ブリキ板の下に2箇所切り込みを入れて左右に折り曲げ、簡単にネジ止めしただけのようで「大丈夫かいな」と心配したくなる程簡単に止めてあった。
(03-4a)(03-4b) 1968 Tipo33/2 Coupe LeMans (1998-08 コンコルソ・イタリアーノ/カリフォルニア)
(03b-1)<1967-69 Tipo33/2 Stradale (Type 105.33)
ティーポ33にはレース用をベースに造られた公道仕様のロードバージョン「ストラダーレ」が存在する。これはカタログ・モデルでホイールベースはレース仕様より100mm長い2350mm、エンジンはV8 DOHC 1995ccを 230hpにデチューンしてあり、デザインはフランコ・スカリオーネ。レースの活躍を背景に売り出されたのかと思っていたが、どの資料を見ても発売開始が1967年となっているので最初から市販計画はあったらしい。
(03b-1a)(03b-1b) 1967 Tipo33/2 Stradale Prototipo ((2010-07 グッドウッド/イギリス)
この車は3台造られたと言われるヘッドライトが4灯式の初期モデル。ワイパーがルーフ側に付いている写真もあるがこの車は一般車と同様下側にあり、フロント・ホイールアーチの後ろに風抜きの穴がない。
(03b-2a) 1968 Tipo33/2 Storadale (1986-11 モンテミリア/神戸ポートアイランド)
国内で捉えた「ストラダーレ」で、カタログ・モデルの市販車といっても3年間で僅か18台しか造られなかった希少価値の有る車だ。こちらは標準の2灯式タイプで先が尖った鋭い印象を受ける。
(04-1)<1969―72 Tipo33/3>
1969年になるとクラス優勝から総合優勝へと期待は大きくなり、V8エンジンの排気量を2998ccにした「ティーポ33/3」でレースに挑戦したが、5リッター・クラスのフェラーリ512やポルシェ917には歯が立たなかった。
(04-1a)(04-1b) 1970 Tipo33/3 LeMans Spider (1997-05 アルファロメオ・ミュージアム)
3リッターとなったティーポ33で、ルマン仕様は普通は屋根付きのクーペが多いがこの車はスパイダーだ。
(04―2) <1971 Tipo33/3TT>
この年、エンジンはそのままでシャシーをチューブラーで組んだ「ティーポ33/3TT」が登場した。1971年には幾つかのレースで優勝しメークス・ランキングでポルシェについで2位となった。当時の「インターナショナル・メイクス・チャンピオンシップ」には「プロトタイプ(3リッター)」と「スポーツカー(5リッター)」の2部門が有り、「タルガ・フローリオ」「ルマン」「デイトナ」「セブリング」「シルバーストーン」「ニュブルクリング」「モンツア」「「スパ」などが舞台となった。
(04-2a)(04-2b) 1971 Tipo33/3 TT Spider (2010-07 グッドウッド/イギリス)
(05-1)<1975 Tipo33/TT12 Spider>
TTのシャシーに2993cc 水平対向12気筒エンジンを載せたこの車は、1975年シーズンに8戦中7勝してアルファロメオに待望のチャンピオンシップをもたらした。
(05-1a)(05-1b) 1975 Tipo 33/TT 12 Spider (2004-06 グッドウッド/イギリス)
(05-2)<1977 TIPO33/SC12 Spider>
1975年念願のチャンピオンとなり、この年限りでレースから引退した筈だったが、1977年になって、またまたスポーツカー・レースに復帰する。形式名は「Tipo33/SC 12」となったが、エンジンはTT12の改良型で、それと並行して「SC」の名前の元となった「スーパー・チャージャー付き」2140ccの2種があった。この年は他社が積極的でなかったせいか8戦全勝で再び「ワールド・スポーツ・チャンピオンシップ」を獲得したが、この年限りでスポーツカー・レースからは手を引き、2年前から始まっていた「F1」の開発に本腰を入れる事になる。
(05-2a)(05-2b) 1977 Tipo 33/SC12 Spider (2001-05/アルファロメオ・ミュージアム)
この車はスパイダーだが、クーペ・タイプもある。
(06)<Tipo33による習作たち>
「ティーポ33」のシャシーは格好な素材として、色々なボディーが造られた。アルファロメオ・ミュージアムでも特別コーナーが設けられ、まとめて展示されているが、今回は太陽の下で撮影したものを選んだ。
(06-1a) 1969 Tipo33/2 Prototipo Speciale by Pininfarina
(06-2a) 1969 Tipo33/2 Iguana by Gougiaro(Ital Design)
(06-3a) 1969 Tipo33/2 Carabo by Gandini(Bertone)
(06-4a) 1976 Tipo33/3 Navajo by Gandini(Bertone)
(07)<1991 Alfa Romeo SE 048 Special>
幻の車と言われていた車の写真があったので、レーシングカーのおまけで載せてしまった。アルファロメオがアバルトに依頼して開発したプロトタイプ・レーシングカー(グループC)でV10 3500cc のエンジン付きだったが、「スポーツカー世界選手権」が中止となった為、この車がレースを走る事はなかった。
(07-1a)(07-1b)(07-1c) 1991 Alfa Romeo SE 048 Special (2010-07 グッドウッド/イギリス)
実戦で走ることは無かったが、グッドウッドのフェスティバル・オブ・スピードでは立派に爆音を轟かせていた。後輪がスパッツで完全に覆われているのが目を引く。
(08)<1975-79 フォミュラー・カー(1)エンジン・サプライヤー>
アルファロメオがF1の世界へ踏み込んだのは、ティーポ33の水平対向12気筒エンジンがきっかけだった。1975年グラハム・ヒルがローラT370に載せたのが最初だったが実戦には参加せず、正式に形式として記録されたのは、1975年末完成し翌76年シーズンから参戦した「ブラバム・アルファロメオBT45」で 燃費の悪さ、重量の重さという問題点を抱えながらも初参戦で2回入賞した。1977年は軽量化など改良を施し「BT45B」となりやや戦闘力を増した結果、モナコGPでポールポジション、フランスGP2位、など27点を獲得しランキングも9位から5位に上昇した。
(08-1a) 1976 Brabham-AlfaRomeo BT45 (2000-06 グッドウッド/イギリス)
(08-2a) 1977 Brabham-AlfaRomeo BT45B (2001-05 アルファロメオ・ミュージアム)
掲示板には「BT45」とあるが、ノーズの「8」の両脇にエア・インテークが2つあるので「BT45B」と判定した。
(09)<1977-85 フォミュラー・カー(2)アルファロメオF1の時代>
1975年「ティーポ33」の為に水平対向12気筒エンジンを開発した際、F1参戦が視野に入っていたのかは判らないが、1977年にはこのエンジンを使って自前のF1カーを造る計画を始めた。実際には78年から作業に入ったが、開発決定時に合わせて「ティーポ177」と名付けられた。完成後、資金不足や役員の交代などの諸事情から実戦に参加したのは1979年になってからだった。
(09-1a) 1977 Alfa Romeo F1 Tipo177 (1997-05 アルファロメオ・ミュージアム)
ミュージアムの掲示板には「F1ボクスター 1977」と表記されているが、後続モデルが「179」「182」と呼ばれているので「177」とした。この車はアルファ初のF1カーで、一台しか造られなかったが完成までには少なくとも4回は変身している。そして現在は最終戦の姿ではなくノーズ・ウイングは179に似たものとなっている。
(09-2a) 1981 F1 179 C (1998-08 コンコルソ・イタリアーノ/カリフォルニア)
アルファロメオ初のF1カー「177」がようやくレースを走り始めた1979年、エンジン提供先ブラバムの要請で新しく開発したスリムな「V12」が完成し、それを使った「179」も参戦を始めた。179シリーズは1979年から81年まで改良を続けながら3シーズンを戦い、シリーズは「179」から「179F」まで6タイプが有る。写真の車は1980年からスポンサーとなったマルボロ・カラーで、日本では後年アイルトン・セナが大活躍した「マクラーレン・ホンダ」と同じ塗装でお馴染みだ。
(09-3a) 1982 F1 179F (2001-05 アルファロメオ・ミュージアム)
179シリーズとしては最終タイプで、「179E」のシャシーを新素材「カーボン・ファイバー」で造り替えたもので、外観は殆ど変りない。ナンバー「22」はマリオ・アンドレッティーの車。
(09-3a) 1984 F1 184 Turbo (1997-05 アルファロメオ・ミュージアム)
1982年にはカーボン・ファイバーのシャシーを持つ「182」が誕生したがエンジンはV12のままだった。1983年になってV8 1.5リッター、ターボチャージャー付きの「183 T」が完成、シーズン中に2位を2回獲得する。1984年、新しいボディとなった「184T」はこの年からスポンサーとなった「ベネトン・カラー」を身にまとってデビューしたが、残念ながら1ポイントも上げることが出来ず、翌年の「185T」を最後にF1への挑戦は終止符を打った。
(10)<トランスポーター>
(10-1a) Iveco Trailer Truck (2000-06 グッドウッド/イギリス)
アルファロメオのトランススポーターはフィアト傘下にある「イヴェコ」のトレーラーが使われていた。
(10-2a) Iveco-Fiat Trailer Head (2001-05 モンツア・サーキット/イタリア)
2000年にイギリスで見たのと同じ型だが、ナンバーが違うので別の車だ。後部はトランスポーターではなく別の場所でサービス用のトレーラーハウスとして利用されているのかもしれない。
最後に恋人たちの幸せを祈りつつ、6ヶ月にわたった「アルファロメオ」を終了としたい。
次回は「アルヴィス」「アミルカー」などが登場する予定です。