いよいよアルファ・ロメオに最もふさわしい名前「ジュリエッタ」が登場する。今更言うまでもないが、シエクスピアの悲劇「ロメオとジュリエット」にちなんだネーミングで、舞台となったベローナはミッレミリアのチェックポイントでもあり、アルファロメオとも縁が深い。
「ジュリエッタ・シリーズ」には色々の組み合わせで11種のバリエーションが作られているので、混乱しないように初めにそのベース確認しよう。ホイールベースは2.38mと2.25mの2種、エンジンは4気筒DOHC 1290ccをベースに、シングル・キャブレター×1又は×2、ツイン・キャブレター×1又は2の4種類のキャブレターと、(7.5)(8.5)(9.1)(9.7)と4段階の圧縮比の組み合わせで53hp~100hpが用意された。
(01)<1954~62 Giulietta Sprint>(Type750B)(1959~Type101.02)
(01-1a) 1955 Giulietta Sprint (ブレシア/ミッレミリア)
このシリーズで最初に登場したのはベルトーネ製(デザインはスカリオーネ)の2+2ボディーを持つ「スプリント」だった。エンジンはツイン・キャブレター×1, 圧縮比8.5、80hp、165km/h、ホイールベース2380mm
(01-2a) 1959 Giulietta Sprint (グリルが網目に変わった後期型)
(02)<1956~62 Giulietta Sprint Veloce>(Type750E)(1960~Type101.06)
(02-1) 1962 Giulietta Sprinto Vrloce
「ベローチェ」とはイタリア語で「速い」という意味。だから最高速度は180km/hでスタンダードのスプリントより15キロも速い。エンジンはツイン・キャブレター×2. 圧縮比9.1、90hpに強化されている。外見は「Veroce」のバッジ以外変わらない。
(03)<1964~66 1300 Sprint>(Type101.02)
1.3リッターのジュリエッタ・シリーズは1962年で終わり、一回り大きい1.6リッターのジュリア・シリーズに変わっていたが、そのジュリアのボディーに1.3リッターのエンジンを載せて、というより「ジュリア」になる前の「ジュリエッタ」が名前を変えて再登場したもの。(既に「ジュリエッタ・シリーズ」は終了していたから、名前に「ジュリエッタ」は入らない)しかし内容は同じだからType101.02はジュリエッタ・スプリントと変わっていない。(注・このモデルの写真は撮ってなかったがエンブレム以外全く同じなので、ジュリエッタ時代のものを参考に載せた。)
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(04)<1955~61Giulietta Berlina>(Type750C)(1959~Type101.00)
(04-1) 1955 Giulietta Berlina
一番ベーシックな「ジュリエッタ」で、アルファロメオがスポーツカー的感覚で捉えられていた当時の日本では輸入されなかったモデル。エンジンはシングル・キャブレター×1、圧縮比7.5、53hp、最高速度140kn/h.
(05)<1961~62 Giulietta Berlina>(Type101.28)
(05-1) ジュリエッタのベーシック・モデル「ベルリーナ」がモデルチェンジした後期型で、スプリント・シリーズと同じイメージのグリルを持つ。残念ながらこのモデルには出逢っていないので、エンブレム以外殆ど同じ「t.i.」モデルの写真を参考に載せた。
(06)<1957~61 Giulietta t.i.> (Type753)(1959~Type101.11)
(06-1) 1959 Giulietta t.i. ブレシア/ミッレ・ミリア
t.i.は「turismo internazionale」の略で、1951年の「1900」シリーズから使われている高性能モデルの表示だが、同時にそれは「ツイン・キャブ」であることも表している。テールランプ付近を除いては、ノーマルのベルリーナと変わらないが、4ドアでその実用性の高さからかジュリエッタ・シリーズの60%を占める8万4千台が造られた。これだけ多く作られたのに残念ながらわが国では評価されなかったようで、現役時代に国内では1台も見ていない。
(07)<1961~66 Giulietta t.i.>(Type101.29)
(06-2) 1965 Jiulietta t.i.(後期型) モンツア・サーキット/イタリア
グリルのデザインが変わった後期型で平凡と言えば平凡だが、最も売れたにもかかわらず、日本では見かけなかった。
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(08)<1955~62 Giulietta Spider>(Type750D)(1959~Type101.03)
(08-1a,1b) 1955 Giulietta Spider Prototype by Bertone
異常に寸詰まりに見えたので写真を撮ったときは改造車かと思ったが後で調べたらベルトーネによる「ジュリエッタ・スパイダー」のプロトタイプであることが判明した。
(09-2) Giulietta Spider by Pininfarina
こちらはカタログ・モデルとなったピニンファリーナ製のスパイダー。
エンジンはツイン・キャブレター×2、圧縮比8.5、80hp 最高速度165km。h、ホイールベース2250mm.
(10)<1956~62 Giulietta Spider Veroce>(Type750F)(1960~Type101.07)
(10-1) 1961 Giulietta Spider Veloce
エンジンは「スプリント・ベローチェ」と同じ強化仕様だが、ホイールベースは「スパイダー」と同じ2250mmのショート・タイプ。
(11)<1958~66 Giulietta Sprint Speciale(Type101.20)
(11-1)1960 Giulietta Sprint Speciale
1956年、強化型の「ベローチェ」が登場したが、より戦闘力の高いスーパー・スポーツを目指して、更に改良を加え圧縮比を9.7まで上げて100hp、最高速度200km/ hが可能なシャシーが造られた。これに「ベルトーネ」のボディを載せたのが写真の「スプリント・スペチアーレ」で、1958年プロトタイプが公開された。空力を重視した曲線で構成されたボディは前回触れたように「B.A.T.5~9シリーズ」の経験を踏まえたもので、デザイナーはフランコ・スカリオーネである。空力特性は優れていたが前後のオーバー・ハングが長く、過激なハンドル操作よりはグランド・ツーリング向けで、レースには同じシャシーに「カロセリア・ザガート」が架装した「SZ」の方が適任だった。このボディは、1963年からはそのまま「ジュリア・シリーズ」に受け継がれた。
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(12)<1959~62 Giulietta SZ(Sprint Zagato)>(Type101.26)
(12-1) 1960 Giulietta SZ(Sprint Zagato) プレスコット・サーキット/イギリス
「SZ」については」次回「TZ」と共に特集する予定です。
(13)<1955~56 Alfa Romeo 750 Competizione>
スパイダーの開発と同時期に造られたレース用の試作車で、ジュリエッタ・シリーズ」の形式名が「750」だったから何か関連があるのかもしれないが、エンジンは1488ccで145hp、220km/hとあった。
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(14)<1960~61Tipo103>
アルファロメオが最初に手がけた「FWD」の試作車で、896cc、52hpのエンジンが積まれていた。試作のみで量産はされなかったが、その「FWD」のノウハウは後年の「アルファスッド」に影響を与えたと言われる。
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さて、ここからは最大の難関「ジュリア・シリーズ」に取りかかる。エンジンは基本的には「1570cc」だが「1290cc」「1779cc」もある。名前は1570ccが「ジュリア」だが、1290ccは「ジュリア1300」となり、1779ccは「1750シリーズ」となる。1290ccは他に「ジュニア」を名乗る場合があり、スパイダーにはジュリアの付かないケースもある。と、ここまででもかなりややこしい。そこで年代別ではなく排気量別に登場する事にしよう。
(15)<1962~69 Giulia t.i.>(Type105.14)
「ジュリア・シリーズ」で最初に登場したのは全く新しいボクシーなボディを持つ「ジュリアt.i.」(ベルリーナ)だった。4ドアで普通の乗用車のように見えるがツイン・キャブ×1で、92hpのこの仕様がジュリアの標準タイプとなる。
(16)<1963~65 Giulia t.i. Super>(Type105.16)
次に現れたのは「t.i.」のあとに「スーパー」まで付いた究極のレース仕様車で、俗に言う「羊の皮をかぶった狼」と言われる車だ。前から見ると内側のライトが外され金網張りになっているのが大きな特徴で、前後のエンブレムやフェンダーの四葉のクローバで識別出来る。ツイン・キャブ×2、112hp仕様。
(17)<1965~67 Giulia Super>(Type105.26)
次は「ジュリア・スーパー」で同じベルリーナ・シリースの中では中間に位置する「高性能な実用車」と言えるだろうか。ドアの下にクロームにラインが入っているのが特徴。ツイン・キャブ×2、98hp仕様。
(18)<1967~74 Giulia Super>(Type105.26)
後期型でグリルの横線が8本から5本に変わった。1969年には出力が98hpから102hpに上がり、エンジン・タイプは「AR526」から「AR526/A」となった。
(19)<1962~64 Giulia Sprint>(Type101.12)
ジュリエッタの後期型にジュリアの1.6リッター・エンジンを載せたのがこの車で、正面からでは全く見分けは付かない。フロント・フェンダーとリアのエンブレムのみが識別点。
1966年撮影で、背景は昭和の始めにできた「同潤会青山アパート」で今は「表参道ヒルズ」となっている。
(20)<1962~65 Giulia Spider>(Type101.23)
「ジュリア」のスパイダーはスプリントの場合と同様「ジュリエッタ」と同じボディに1.6リッターを載せたものだが、こちらはボンネットに幅広くエアインテークが切られており簡単に見分けられる。場所は赤坂のホテル・ニュージャパンの前で、世界的なエンターテイナーのショーが案内されているが、ここは後年火災で焼失してしまった。1966年7月撮影
(21)<1964~65 Giulia Spider Veloce>(Type101.18)
「ジュリア」スパイダーにより強力なエンジンを載せた強化モデルが「ベローチェ」だが、外観は後部にあるエンブレム以外に違いは見つからない。
(22)<1965~67 Gran Sport Quattroruote>(Type101.23)
イタリアの自動車雑誌「クワトロルオーテ」の提案で「アルファロメオ」と「ザガート」が賛同して実現したのがこの車だ。「ジュリア」の名は付いていないが、Type101.23はジュリア・スパイダーと同じだ。しかしエンジンを始め中身は「ジュリアt.i.」のコンポーネントが流用されている。彼らが考える理想型が戦前の「6C-1750 GS」で、それを目標に造られた筈だが、素人の僕が見ても本物とはかけ離れた印象を受ける。もしかしたら「6C-1750GS」を目指したと勝手に思っているだけで、彼らが目指していたのはややクラシカルな現代風の、例えばMG-TDクラスだったかも。だとしたら納得だが・・。それでも限定50台の予定が最終的には90台以上造られた。
(23)<1963~65 Giulia Sprint Speciale>(Type101.21)
ベルトーネが造った「ジュリエッタ」のスペシャル・ボディ「SS」は、「ジュリア」になっても全く変化はなく、僅かにエンブレムで確認するしかない。
(24)<1965 Giulia Sprint Speciale (Prototype)>
ミュージアムで見つけたベルトーネ製のこの車はいまいち素性がわからない。データからみると今までの「ジュリアSS」と変わらず、「プロトタイプ」とも書いてないが生産された形跡もない。年代から推定すれば1965年で生産が終了した「SS」の後継車だった可能性は高いが、1963年から発売された「ジュリア・スプリントGT・シリーズ」の爆発的人気から生産が見送られたのかも、という推定も出来る。
(25)<1963~66Giulia Sprint GT>(Type105.02)
「ジュリア・シリーズ」が1962年に登場した時は、新しく造られた「4ドア・ベルリーナ」の他は、「ジュリエッタ・シリーズ」から引き継いだ「スプリント」「スパイダー」「スプリント・スペチアーレ」の4本立てでスタートした。しかし翌63年9月、戦後最大の傑作とも言える「スプリントGT」がジウジアーロのデザインでベルトーネから発表された。2ドアのスポーツ・クーペでありながら大人4人が無理なく乗れるスペースがあり、しかもそれを感じさせない引き締まったボディと優れた操縦性能は実用車とスポーツカーの両面を兼ね備えた車で、このあと変化しながら1969年まで造られた。
(26)<1965~68 Goulia Sprint GT Veroce>(Type105.36)
過去の例と同様「スプリントGT」にも強化版「ベローチェ」仕様がが登場した。外見は細い格子から3本の横バーに変わった。バンパー付きのまま街中で見ればごく普通の乗用車に見えるが、ひとたびバンパーを外せばレース場が似合う格好良さだ。
(27)<1965~69 Giulia Sprint GTA>(Type105.32)
「スプリントGTベローチェ」をアルファのレーシング・ファクトリー「アウト・デルタ」の手で高度にチューンしたのが「スプリントGTA」で「A」は軽量化を表すalleggeritaの略で、流石に1040kgが820kgまで220kgも減量されている。高度にチューンされているが立派なカタログ・モデルで1966,67.68.69年とヨーロッパ・ツーリングカー・チャンピオンを獲得している。
(28)<1966 Giulia Scarabeo Prototype>
「スカラベ」とはコガネムシの事らしい。中身はジュリアシリーズの中で最強の「スプリントGTA」で、「カロセリアOsi」の手で作られたプロトタイプの一台。
(29)<1963~66 Giulia TZ>(Type105.11)
「TZ」については次回「SZ」と共に特集する予定です。
(30)<1966~68 Spider 1600 Duetto>(Type105.03)
ジュリア・シリーズのオープンモデル「スパイダー」は1965年で生産が終わり、その後は「スプリントGT」の屋根を取った「GTC」が補っていたが、1966年登場したピニンファリナによる本格的「スパイダー」が写真の「デュエット」である。ジュリアの名前は付かないが、「旧ジュリア・スパイダー」との混同を避けるためと、「デュエット」の名前を印象付けるのには懸命な選択と思う。因みにType105.03は明らかにジュリアの仲間である。
(31)<1965~72 Giulia 1300 t.i.>(Type105.39)
1964年新しい「ジュリア」のボディに「ジュリエッタ」の1290ccのエンジンを乗せたモデルが「ジュリア1300」として登場した。写真は翌65年スタートした「t.i.」で、1300シリーズではヘッドライトが2灯となる。
(32)<1966~74 GT 1300 Junior>(Type105.30)
こちらも「ジュリア・スプリントGT」のボディに「ジュリエッタ」のエンジンを乗せたものだがボディは同じで、元から2灯で変化はなく、グリルに一本のラインが入った。名前にジュリアは入らない。
(33)<1968~69 GTA 1300 Junior>(Type105.59)
1300シリーズにもアウト・デルタでスペシャル・チューンした市販のレーシング・モデル「GTA」が存在する。こちらのエンジンは「ジュリエッタ」からの転用ではなく「ジュリア」のストロークを縮めショート・ストロークにした物が使われている。
(34)<1970~74 Junior Z(Zagato)>(type105.93)
「ジュニアーZ」は次回ザガート特集で「SZ」「TZ」と一緒に紹介する予定です。
(35)<1967~72 1750 GT Veroce>(Type105.44)
1967年アルファロメオにとっては懐かしい響きを持つ「1750・シリーズ」が戻ってきた。しかしこれは戦前の「6C-1750」とは違って4気筒で1779ccだから、本当は「4C-1800」だがそこの所は目をつぶろう。ジュリアの名称は付かないがグリルが変わり、ボンネットが段付きで無くなった他は旧スプリントGTと変わらない。
(36)<1968~71 1750 (Berlina)>(Type105.48)
この車は形も地味だが、フルネームが「アルファロメオ 1750」と他のモデルに較べて実に単純で味気ない。しかしシリーズの他のモデルが旧型からのままのボディだったのに、この車だけはホイールベースを延ばし居住性を向上させるなど、決して無視されていたわけでは無いらしい。
難問のジュリア・シリーズをなんとか終わりにした。ここで使っている写真は、僕自身が撮影した物に限っているので、モデルの全てを網羅していない。又、ぼくの知識不足で分類しきれない分野もあり、物足りない所はお許しいただきたい。