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第36回 ホンダN-ONE
2012.12.27

11月はじめに行われたN-ONE発表会で、室内居住性、使い勝手、内装の質感、更にはターボモデルの価格設定などに強く印象付けられ、今後の軽市場へのインパクトを推し量るべく、N-ONEターボと新型ワゴンRステイングレー(ターボ)の「車評コース」における実用燃費も含む比較評価と一般道路における評価を行ったのでご報告したい。2車には一長一短あるものの、いずれも満足のゆく動力性能、室内居住性、使い勝手を備えており、実用燃費も従来の軽ターボから明らかに前進していることを確認した。ホンダは軽ラインアップの一段の拡充を宣言しており、スズキ、ダイハツなどにとってはまさに真っ向勝負となるとともに、国内市場における軽自動車の販売比率が遠くない将来50%近くにまで拡大するのではないかと予感させられる結果となった。

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・試乗車 ホンダN-ONE 以下《 》内はスズキワゴンRスティングレー
・ グレード Tourer・Lパッケージ 《T》
・全長 3,395mm               
・全幅 1,475mm
・全高 1,610mm 《1,660mm》
・ホイールベース 2,520mm 《2,425mm》
・車両重量 850kg 《820kg》
・エンジン 直列3気筒DOHCターボ12バルブ 
・排気量 658cc
・最高出力 64ps(47kW)/6,000rpm
・最大トルク 10.6kgm(104N・m)/2,600rpm 《9.7kgm(95N・m)3,000rpm》
・変速機 CVT《副変速機付きCVT》
・タイヤ 155/65R14 《165/55R15》
・燃料消費率 JC08モード燃費 23.2km/L 《26.8 km/L》
・車両本体価格 1,370,000円(消費税込) 《1,496,250円》

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N-ONEの簡単なご紹介
「フィットを超えるプレミアム軽」を目指して開発されたN-ONEは、ホンダのクルマづくりの原点M・M(マン・マキシマム/マシン・ミニマム)を継承、大人4人が十分にくつろげる室内空間を、センタータンクレイアウト、エンジン前後長の短縮、軽自動車最長ホイールベース(N BOXと共通のプラットフォーム)、立体駐車場要件を割り切った全高などにより実現している。後席はワゴンRのように前後スライドはしないが、多岐にわたるシートアレンジが可能で、使い勝手は申し分ない。外観スタイルは「N360」をモチーフにしながらも新時代の軽をめざしたもので、内装の質感はフィット以上だ。ロングストロークエンジンならびにCVTは新開発で、ターボエンジンは十分な低中速トルクを発生し、全く不足のない走りを実現している。N-ONEの場合NA(自然吸気エンジン)のベースモデルの価格が115万円から始まるのに対し、ターボ車は123万円からというのをみてもホンダがターボを派生車種ではなく、主力車種にしたいと考えていることが明らかだ。(ワゴンRの場合はNAが110万強から、ターボが149万円強から)

燃費
評価結果は今回も実測燃費から始めたい。ホンダN-ONEの車評コースにおける満タン法による実測燃費は15.7 km/L、対するスティングレーは18.2 km/Lとなり、カタログ燃費がN-ONEが23.2 km/L、スティングレーは26.8km/Lなので、偶然の一致だが達成率は両モデルとも全く同じ68%となった。評価コース中の高速セクションのメーター燃費はステイングレーの場合セットミスにより計測できなかったが、N-ONEは19.2 km/Lだった。市街地セクションのメーター燃費はN-ONEの11.5 km/Lに対してスティングレーは13.1 km/Lとなり、この違いにはアイドルストップの有無がかなり影響しているのではないだろうか。また90km/hで走行時のエンジン回転数はN-ONEの約2500rpmに対してスティングレーは約2000rpmとかなりの差が見られたのは興味深い。

過去に「車評コース」で行った9台の軽ターボ車(軽バンを除く)の平均実測燃費は14.3 km/L(その内スズキのターボ車2台は、セルボ:15.2、ニッサンモコ:15.0、ホンダのターボ車2台はゼストスポーツ:13.8、ライフ:14.0)だったので、今回の2台はそれぞれかなり改善されていることが分かる。

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走り
走りに関しては両モデルとも自然吸気のコンパクトカーよりも速く、これ以上の走りは不要と言えるぐらいだ。特にN-ONEは"econ"オンでも不足のない走りを示す上に、"econ"をオフした場合には一段と素晴らしい走りが楽しめた。豊な低中速トルクを発揮するターボエンジンが大きく貢献しているようだ。ステイングレーも走りに全く不足はなく、同じく低中速を重視したターボエンジン、副変速機付きCVT、「エネチャージ」による発進時の充電負荷の排除、軽量化などが走りの面でも大きな効果を発揮しているようだ。ステイングレーはターボにもアイドルストップが装着されるが再始動性は非常に良好で、燃費への貢献も小さくないはずだ。CVTの違和感は、両モデルともほとんど感じなかった。

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内外装デザイン
「N360」をモチーフにしながらも新時代の「プレミアム軽」をめざした外観スタイルは、ワゴンRやダイハツムーブのような既存のトールワゴンでは満足できないユーザー層獲得を目指したものと思われ、その目的は一応達成できていると思うが、一方でフィアット500、BMWミニ、VW up!のような「小粋さ」や「質感」がつくり込まれているとは言い難い。全体のフォルムや面のつくりこみ、フロント、サイド、リアの細部処理などにはまだ努力の余地が残されているように思う。一方内装は、インパネ、ドアトリム、シートなどシンプルだが好感のもてるデザインで、質感もフィット以上だ。残念なのはメーター周りの質感と視認性で、この面では明確にスティングレーに軍配が上がる。

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室内居住性、実用性
N-ONEを東京モーターショーで見た時はかなり狭い室内を想像したが、実車は予想と大きく異なり、後席居住性、実用性ともに文句ないレベルであることに驚いた。後席はワゴンRのように前後スライドはしないが広さは十分で、加えて軽自動車中最大の後席後ろの荷室奥行き、荷室床下のサブトランク、シートバックを前に倒した折のシートクッションのダイブダウンによるフラットカーゴエリア、左右シートクッションのチップアップ機能など、多くのコンパクトカーが足元にも及ばない実用性を備えている。N-ONEで一寸気になったのはシートのシートクッション長で、前後席ともあと20~30mmは欲しいところだ。ワゴンRの室内居住性、実用性に関しては前報で報告済みなので省くが、N-ONE同様ほとんど文句の付けどころがない。

曲がる/止まる
「曲がる/止まる」の領域は明らかにN-ONEに軍配が上がる。まず高速直進時のステアリングのオンセンターフィールがいい。更に舵角を与えた時のボディーコントロールも良好で、安心して高速のワインディングを走ることが出来る。車体剛性の高さも貢献しているのだろう。対するスティングレーはNAのワゴンRより良いが高速のステアリングオンセンターフィールなどもう一歩だ。ただし市街地では両車の差はそれほど感じない。ブレーキもN-ONEの方がいい。スティングレーターボは自然吸気のワゴンR同様初期の効きが甘く、特に市街地ではかなり気になった。是非スズキに改善をしてほしいポイントだ。

振動・騒音・乗り心地
振動・騒音の領域はスティングレーに分がある。スティングレーの場合ターボにもアイドルストップが装着され、停車時にはほとんどエンジンが停止しているため振動は気にならないが、N-ONEの場合はターボにはアイドルストップ装着がないので明らかに不利で、加えてN-ONEの場合ロードノイズ、エンジンノイズももう一歩だ。乗り心地は(ワゴンRの自然吸気モデルでは高い空気圧にも起因し要改善だが)、スティングレーターボの場合は2.4気圧というリーズナブルなタイヤ空気圧のため、高速セクションではレインボーブリッジ登りの凹凸や首都高の舗装継ぎ目もほぼ気にならなかった。N-ONE(空気圧はF: 2.4、R: 2.3)も同様に高速セクションでは不満のないレベルだった。ただし両車とも市街地の凹凸路ではもう一歩しなやかな乗り心地がほしい。

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N-ONEを一言でいうと
何点かの気になる点を除くとN-ONEターボは価格も含めて非常に魅力的なクルマに仕上がっており、これまでの軽自動車には抵抗のあった人、普通車からのダウンサイジング志向層、引退後の経済負担軽減を目指す団塊の世代などに加えて、従来の軽自動車からの代替え需要などにも十分にアピールするクルマとなりそうで、冒頭述べたように、スズキ、ダイハツなどにとってはまさに真っ向勝負となるとともに、ガラパゴス市場の拡大が心配だが、遠くない将来に日本における軽自動車の販売比率が50%近くにまで拡大するのではないかと予感させられる結果となった。

N-ONEの+と-
+文句のない動力性能
+十分な室内居住性と実用性
+運転を楽しめるハンドリング、ブレーキング
-長時間乗車には一寸厳しいシートクッション長
-もう一歩の振動騒音
-質感の劣るメーター周りデザイン


●N-ONE開発関係者インタビュー

日時:2012年11月16日
開発責任者:浅井泰昭氏
インテリア担当:金山慎一郎氏
エクステリア担当:石川孝夫氏

まとめ:三樹書房編集部

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LPL(開発責任者):浅木泰昭氏

 N-ONEは、N360をモチーフにしています。N360の開発当時はMM(マンマキシマム・メカミニマム)思想という言葉はありませんでしたが、まずキャビンから設計をはじめたというのは、まさにMMの元になった考えで、N-ONEはN360の思想を受け継いでいると言えると思います。
 Nシリーズ(N BOX、N BOX+、N-ONE)のコンセプトには、同じプラットフォームを使って、全然違う価値観を持つ全然違う人に新しい提案をする、ということがあります。全く違うクルマを「シリーズ」と称しているのはその意味です。
 軽の限られた枠の中で他社より魅力的な商品を提供するためには、他社にない技術で、広さや走りを創る必要がありました。N-ONEほどデザインに振った軽はほとんどなかったと思います。デザイン性と基本的な室内の広さを共存させるのは、このプラットフォームがあるからできることなのです。
 また、いわゆる安い軽自動車を求めるお客様でだけではなく、上からダウンサイジングしてきたお客様に、クラスを超えて選んでもらえるオプションを開発しなくてはと考えました。
 だからこそ、安全設備を充実させました。このプラットフォームはハイクラスの安全性を目標としており、軽自動車でこれだけのアイテムが付いているのは他にない、と自負してます。
 N-ONEについては、割安な小型車と対抗しうる、新しいポジションの軽自動車を作りたい、と考えていました。今のところ、この目標は実現できたと思っています。実際に乗り比べていただければ、居住性や安全性でむしろ普通車より優れている部分に気づいていただけるでしょう。また、N360にもあった、日本車っぽくない、あか抜けた感じ―N-ONEは、普通車も含めて、他にないヨーロッパ的な感じがあります。私は軽の枠を超えて、クラスレスで他にないものを作れたことに自信をもっているのです。


インテリア担当:金山慎一郎氏

 インテリアデザインにおいて、昔のクルマのモチーフをそのまま持ってくる、ということは、エクステリアデザインより難しい作業です。安全機能の追加の必要などがあり、部品の製法も変わっているからです。ただ、N360の、小さいけれど中が広くて居心地がいいという感じ、シンプルなつくりで長く使っても飽きのこないところは、活かしたいと思いました。つまり「ホンダが昔からやっていたMMの思想を現代に蘇えらせる」ということを私は実現したわけです。
 デザイン的には、通常インパネのセンターにあるオーディオを取り、ワイド感のある左右の隔たりのない新しい空間を作りました。パネルは通常だと仕切り線が入りますが、大きく一枚のものにしました。また、ドアの部分に凹凸をあえて付けることで、内装に厚みを持たせました。シートは肩の部分を丸くして、リアの視界感を出したり、厚みを削ってひざ回りを広くしたりしました。軽自動車は後ろの居住性をある程度割りきってしまっているものも多い中で、N-ONEはこの点をかなりこだわりました。
 カラーは、上級仕様車に多い黒と青ではなく、バーガンディーで上質感を出しました。1980年代のホンダ車に一部このような色のインテリアがあり、その年代の方にはなつかしく、若い方には新しいなと思っていただけると思います。
 当初はN360を、直接的かつ具体的にモチーフにするつもりはなかったのですが、出来たものは思った以上に似ていました。シンプルかつハイクオリティーに見せたい、長く使ってもらって愛着を持ってもらいたい、という同じコンセプトのもとに、N360もやっていたのではないかとインテリアデザインを通して感じました。それが、年代は違っても、今こうして同じような形になってきたのだと思いますね。
 

エクステリア担当:石川孝夫氏

 モチーフとなったN360については、ボディとキャビンのバランスとか、極力要素を減らしてすっきりとしたところなど、現代においてもデザインが優れていると感じました。今のクルマは要素が多いけれど、N360は、要素が少なくすっきりシンプルな中に、クルマらしさが入っているのです。
 ただ、この当時とはお客様の価値観が変化していますから、N360のデザインそのままの焼き直しを作るのではなく、当時の「四人しっかり乗れるけれど所帯じみていない、おしゃれなクルマ」のコンセプトを大事にしようと思いました。
 全体のデザインとしては「前に進みだしそうな感じ」を大切にながら、決められた幅の枠の中でどれだけタイヤが張り出しているように見せるかにこだわり、鼻回りをしっかり見せて安心感を出しました。またフロントの丸目を強調させ、スモールランプの光り方でひと目でN-ONEだと分かる個性を強調しました。また軽自動車は、どうしても薄っぺらく見える傾向があるので、テールは四角く厚みを感じさせるようにして質感をあげてます。
 また、今回の目的はダウンサイジングですが、気持ちとしてはクラスレスのスモールカーを作りたいと思っていました。軽自動車に移ってくるお客様は、経済的な理由も多いのですが、仕方なく...ではなく積極的に選んでもらえるクルマにしたい、ということをかなり意識してデザインしました。
 上質で、生活が豊かになり、自慢になるようなクルマをデザインしたので、オプションパーツも含めてそれを楽しんでいただければと思います。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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