ハイウェイから離れて、田園地帯の中の二車線の道路を行く。あたりは、絵に描いたような美しさだ。
ゆたかな緑が広がり、空気はきれいで、道路には、ぼくたちの乗った自動車しか走ってはいない。
道路の
人口が二千名のアメリカ東部の小さな町。いったい、どのようなたたずまいなのかと胸がときめく。
緑の樹が多くなり、道路がその樹々の中をゆったりした
高い樹よりもさらに高く、教会の白い
初夏の夕方近く。時の流れが止まってしまったかと思えるほどに、ゆっくりと暮れて行く、とても気持ちのいい静かな
こんもりとした小さな森が、なだらかにもりあがった丘の上にある。森の中に、白い建物が見える。童話の中に出てくる家のようだ。
公共の建物らしいけど、いったい何だろうかと思って
ゆっくり、車でながして行く。あたりの光景と美しく調和した、夢のような建物が点在する。人の姿を見かけない。ごく時たま、自動車とすれちがう。
これでいったい町なのだろうかと思いながら走って行くと、緑の樹の間から、暮れなずむ初夏の風に乗って、ブラス・オーケストラの演奏する音が聞こえて来る。
その音の方へ、車を向ける。
樹に囲まれて広い芝生がある、そのまん中に、丸く、野外音楽堂のような建物がある。ステージだけで客席はない。
白く塗った高い天井の下で、ブラス・オーケストラが指揮者の腕の動きに合わせて演奏している。
芝生に簡単な
自動車が十台ほど、広場を囲む道路のあちこちに止まっている。車の中の人たちも、ブラス・オーケストラを聞いている。
オーケストラのメンバーは、老若男女、とりどりだ。ピッコロを吹く十二、三歳の少年のななめ前に、チューバをかかえたおばさんがいる。
ミニなスカートからたくましい
一曲の演奏が終わると、聞いていた人たちは手を
自動車のホーンが、こんな時に拍手のかわりになるなんて!
くっきりと目の覚めるような、とても
初夏の夕暮れ前に行われる、町の楽士たちによる、ブラス・オーケストラの演奏。
一曲が終わるたびに、自動車のホーンがあちこちから鳴り、青い空に吸い込まれ、緑の樹々の中に消えて行く。大都会のまん中で聞く自動車のホーンとは、まったく違っていた。おだやかで、のどかで、落ち着いたゆとりと、暖かい心に満ちていた。ぼくたちも、さっそく真似をしてホーンを鳴らした。
楽士たちは、一曲が終わるたびに、お互いに、にこにこと笑いあう。とても楽しそうだ。
◆編集部より
片岡義男さんの連載は最終回です。一年間ご愛読ありがとうございました。