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第33回 アウディA1スポーツバック
2012.9.27

6月に発売されたアウディA1の5ドア「スポーツバック」は昨年の東京モーターショーでワールドプレミアとして発表されたモデルだが、モーターショー会場でも小型ながらプレミアムイメージにあふれたモデルとして大変興味深かったので、今回長距離走行を含む総合評価を行うことにした。結論を一言で言えば、質感豊かな内外装デザイン、優れた動力性能と燃費に加えて、ハンドルを握ることが非常に楽しく、後席の居住性に難点はあるもののスポーツコンパクトを求める人たちにとって大変魅力的なクルマに仕上がっていることを確認した。

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・試乗車 アウディA1スポーツバック
・全長 3,970mm
・全幅 1,745mm
・全高 1,400mm
・ホイールベース 2,465mm
・車両重量 1,220kg
・エンジン 直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボ
・排気量 1,389cc
・最高出力 122ps(90kW)/5,000rpm
・最大トルク 20.4kgm(200N・m)/1,500~4,000rpm
・変速機 7速Sトロニックトランスミッション
・タイヤ 215/45R16(オプション)
・燃料消費率 JC08モード燃費 17.8km/L
・ベース車両本体価格 2,930,000円(消費税込)

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外観スタイル
日本のコンパクトカーの場合、コストダウンの圧力や、ターゲットカスタマーのデザインへの関心の低さなどに起因してか、ニッサン マーチ、三菱 ミラージュ、トヨタ カローラのように、「これでいいのか」と思える外観スタイルのクルマが少なくない。しかし「プレミアムコンパクト」を目指したアウディA1は違う。スタイリッシュ、スポーティーで、豊かさと質感あふれる外観スタイルが非常に魅力的だ。一目でアウディと分かる明確な表情のシングルフレームグリル、ヘッドライト上面からテールライトに向けて流れるキャラクターライン、ラップアラウンドタイプのハッチ、オプションとはいえLEDのポジショニングライトなどが外観スタイルを見事に演出している。ただし残念なのは、シトロエンDS5ほどの個性には乏しく、スポーツバックを名乗るにはややデザイン面でのダイナミックさが欠けていることだろう。

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内装デザイン
内装デザインもいい。まずインパネまわりの造形はシンプルながら機能的で、いたってオーソドックスだが、メーター周りやHVAC周りの造形やフォント、ステアリングホイールの握り形状とタッチ感、エアコンルーバー、シフトレバー、ドアハンドル、スピーカー周りのクローム加飾などにより、大変"Inviting to driveな"(運転したくなる)内装に仕上がっている。"Quality feel"も一クラス以上上の国産車にもなかなか見られないレベルだ。シートの形状、座り心地、ホールド感もいい。エアコンルーバーのコントロール性、機能性、見た目の良さは、これまで接したことのある円形ルーバーの中では抜群だ。総じてA1スポーツバックの内装デザインには、外観スタイル以上に私が引きつけられたことを申し添えておきたい。NAVIを含む情報・通信・エンターテインメント機能を結集したMMI 3G Plusは使い勝手が良さそうだが、各機能を十分に使いこなすにはそれなりの慣れが必要となりそうだ。

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走りと燃費
今回の長距離評価では市街地、高速、山岳路など幅広い走行条件をカバーすることが出来たが、まず魅了されたのがその俊足ぶりだ。1.4Lの直噴とターボを組み合わせたTFSIエンジンは最高出力こそ122psと控え目だが、200N・mの最高トルクが1,500rpmから4,000rpmの間で発生することと、7速Sトロニック変速機の組み合わせにより、市街地走行ではDレンジで非常に低い回転数を維持しつつ不足のない加速性能を発揮、山岳路などでSレンジに入れると、下手なスポーツカーも顔負けの走り性能を楽しむことができた。また7速Sトロニック変速機の変速ロジックが絶妙で、Sレンジで登坂中に3速から2速への減速時に2度ほどショックを感じた以外は、D、Sレンジとも、「ここで変速してくれるのがベスト」と思えるタイミングで見事に変速をこなしてくれた。

以下が今回得られた実測燃費だ。(満タン法)
那須往復  503.8km 33.00L (15.3km/L)
御殿場往復 239.7km 16.25L (14.8km/L)
いずれもかなりな市街地走行を含んだものだが、トヨタ 86、スバル BRZ、マツダ ロードスターなどはもちろん、ホンダ フィットやスズキ スイフトの実測燃費をも上回るもので、走り性能と合わせて考えると大変良好な燃費だ。市街地のみの走行では9km/L前後、高速のみ場合は17km/L程度とみていいだろう。また日本車にしばしば見られる燃費の速度依存性(高速走行中に速度が上がると急速に燃費が悪化する)が少ないのもうれしい。ECモードで基本的な開発がなされてきたからではないだろうか。

曲がる/止まる、乗り心地
ステアリング・ハンドリング、ブレーキングもいい。広範囲な速度領域で直進走行が非常に気持ちよく、また電動油圧PSの操舵力は入力初期から非常にリニアだ。ロールのコントロールも良好で、ワインディングロードでのアンダーステアも弱く、意のままに操ることが出来た。ブレーキも山岳路をはじめ市街地でも非常に使い易い。総じてA1の走りはFFとは思えないほど気持ち良く、FR志向派にも是非とも注目してほしいレベルだ。 今回評価したモデルには標準の15インチに対してオプションの16インチタイヤが装着されており、低速時の凹凸路と高速の舗装の継ぎ目でのごつごつ感は否めなかったが、総じてタイヤを良く履きこなしているという表現が適切で、過去にA1を試乗した人の乗り心地の固さに対する批判とは明らかに異なるものとなった。A1自身の進化、あるいは装着タイヤサイズに起因するものだろうか。

パッケージング
このように多くの点に魅了されたA1スポーツバックだが、ネガティブなポイントも指摘しておかなくてはならない。後席の居住性だ。普段RX-8の後席に乗せても文句を言わない身長170cmの娘を後席に乗せて走り始めた瞬間、「後席のスペースが狭く、シートバックが立ちすぎ、側方視界が悪い。後席に座っての長距離は快適ではない」とのコメント、私のドライビングポジションにセットすると、膝前には握りこぶしひとつは入らず、頭上には手のひらがかろうじて入るスペースしかなく、シートバックが立ちすぎていることを確認した。もちろん86・BRZの後席より遙かにルーミーだが、成長した子供たちを含む家族全員で長距離ドライブを楽しみたいという向きにはあまりお勧めできない。

オートスピードコントロール
今回の長距離走行ではオートスピードコントロールを存分に活用することができた。日本で販売される日本車の場合、105km/h前後でキャンセルされてしまい、かなりな対価を払っているにも関わらず、使用する機会がほとんどないのが現実だ。「高速道路の速度制限は100km/h、よってそれ以上の速度での活用は不要であり、不法だ」という理由だろうが、実に現実離れした車両規制であり、自動車工業会などが声を大にして制約を解除することを願いたい。それにより高速道路上の交通流がよりスムーズになるとともに、アクセルのOn/Offの頻度を大幅に削減できることによる高速実用燃費の向上も期待できるはずだ。アウディA1のオートスピードコントロールは、高速の交通流に従って全く問題なく使用できるだけではなく、加速、減速、一時キャンセルなどの各種操作が非常に容易で、今回は高速走行中の交通流がスムーズだったことにも助けられ、7割近い走行時間活用出来たことをご報告したい。

プレミアムコンパクトの大切さ
最後に軽自動車も含めて「プレミアムコンパクト」というカテゴリーに属する日本車は皆無といってよいのが現状だが、一方では経済の低迷、家計における金銭的な余裕の低下、燃料費の高騰などに起因し、「上級車からのシフトを加速するプレミアムコンパクト」の存在が日本市場において非常に大切になってきていることは自明であり、その意味からもアウディA1は日本メーカー関係者にも是非体験をおすすめしたい1台だ。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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