今回試乗した車両はSKYACTIV-D(ディーゼルエンジン)搭載のXD 4WD車で、房総半島半周と箱根往復を含む広範囲な走行条件で評価することが出来た。先日の箱根試乗会での印象とも合わせて、CX-5を一言でいえば、改善要望点は若干あるものの、総じて非常に魅力的なクルマに仕上がっており、中でもSKYACTIV-Dのインパクトは強烈だ。SKYACTIV技術の開発にあたるマツダ開発陣の努力に心より讃辞を送るとともに、日本市場におけるディーゼルエンジン乗用車の市民権確立、欧州、北米、中国市場などにおけるマツダビジネス拡大などに期待したい。小排気量SKYACTIV-Dの登場も待遠しい。
【マツダCX-5】
・試乗車グレード XD(4WD)
・全長 4,540mm
・全幅 1,840mm
・全高 1,705mm
・車両重量 1,610kg
・エンジン 水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ
・排気量 2,188cc
・最高出力 175ps(129kW)/4,500rpm
・最大トルク 42.8kgm(420N・m)/2,000rpm
・変速機 電子制御6速オートマチック
・燃料消費率 JC08モード燃費 18.0km/L
・車両本体価格 2,790,000円(税込)
爽快な走りと良好な燃費だが注文も
このクルマに関してはまずは動力性能と燃費から始めたい。前報で「走り始めた瞬間から驚かされたのが低速トルクの豊かさで、低回転で高トルクが得られることのメリットを痛いほど思い知らされた。次に驚いたのが従来のディーゼルとは異なる吹けあがりで、その気で踏みこめば5500rpm近くまで軽快に吹きあがって行く。」と述べたが、今回、市街地、郊外、高速道路、登坂などを含む広範囲な走行条件下で、改めてSKYACTIV-Dによる爽快な走りを確認することが出来た。エンジン騒音もよく抑えられており、アイドリング以外ではディーゼルであるとは思えないほどだ。
今回は各種の実測燃費も計測することができたが、初日の房総半島半周(往路は世田谷から首都高、京葉道路経由で千葉へ、千葉~勝浦往復は一般道、帰路は千葉からアクアライン経由川崎、そこから世田谷までは一般道)トータル327kmの燃費は満タン法で16.0km/L(メーターで16.8)、往路の世田谷から千葉までの高速区間のみ(max 90km/h前後)では19km/L、高速平坦路でオートクルーズを75km/hにセットして走行した折にはなんと25km/Lという良好なデータが得られた。
一方で翌日の箱根往復(往路は御殿場まで東名高速、帰路は小田原~厚木道路&東名)トータル266kmの燃費は満タン法で13.2km/Lとなり、二日間の各種トライアルから、燃費が速度、負荷に大きく依存することが判明した。この理由は必ずしもSKYACTIV-D本来の特性ではなく、多くの日本車同様、国内燃費測定モードに特化したセッティングに起因している可能性も否定できない。 このあたりは是非究明したい点で、その面からも欧州市場に導入されるSKYACTIV-Dの高速実用燃費は大変興味深い。
e燃費はまだ公表されておらず、今回は車評コースでの燃費測定も行えなかったが、ユーザーの平均実用燃費はコンパクトカー並みの14~15km/Lあたりになるのでは? 軽油のコストメリットを考慮すると1.6トンを超える4WD車でありながら、燃料コストはハイブリッドコンパクトカーに近そうで、小排気量SKYACTIV-Dを搭載したコンパクトカーやコンパクトクロスオーバー車の登場が待ち遠しい。i-stop(アイドルストップ)システムは、大容量バッテリー劣化時の交換コストは気になるが、再始動時間は0.4秒と非常に早く、始動時のショックも小さい。
新開発のSKYACTIV-DRIVE(トルクコンバーター式6速電子制御オートマチックトランスミッション)はロックアップ領域がJC08モードで従来の50%から80%近くに拡大され、非常にダイレクトなドライビングフィールが実現、変速ショックもほとんど感じない。また降坂時の自動シフトダウンも非常にうれしい機能だ。このトランスミッションによる燃費への貢献は4~7%という。
人馬一体感に拍手
「走る」に加えて、「曲がる」、「止まる」の領域も人馬一体感の優れたクルマに仕上がっていることを確認した。ペダル配置、ドライバーと各種操作系とのインターフェイスも良好だ。まずアクセル操作に対するクルマの挙動がリニアで気持ち良く、長距離走行時のドライバー疲労にも効果がありそうだ。次にステアリング操作に対するクルマの挙動が自然で、箱根のワインディングロードなどでは重心の高いSUVに乗っていることを忘れるほどだ。高速直進性にもいい。そしてブレーキも踏力に対する制動力がリニアで、コントロールが容易だ。総じてSKYACTIV-CHASSIS、SKYACTIV-BODYにも起因したトータルビークルダイナミックは上々の出来栄えで、ロードノイズ、ウィンドノイズの低さなども含めて、運転することが楽しく、気持ちの良いクルマに仕上がっていることを確認した。
乗り心地には一部注文あり
二日間の各種走行条件下での乗り心地の印象は総じて良好で、箱根で私がよく使う「舗装悪路ワインディングロード」をその気で走った時のしなやかでしたたかな走りには大変感銘したが、注文をつけたいところが無いわけではない。サスペンションストロークが微小な低速の舗装悪路や高速道路上の連続した舗装継ぎ目などにおけるタイヤのばたつきと乗員への振動伝達で、特に後輪からの入力が大きいと感じた。今回の17インチタイヤ装着車でも明らかに改善が必要だし、過日の箱根試乗会時に比較した19インチタイヤ装着車はよりばたつきが大きかった。乗り心地に限らず、スタッドレスへのはきかえや摩耗時のタイヤ交換コストなども含めて、タイヤサイズに対する私のお勧めは断然17インチだ。
居住性と使い勝手
この面での評価はまずシートからはじめよう。フロントシートのサイズ、クッション性、ホールド性などはなかなかの出来だ。ただし後席はシートフラット化の犠牲になったのか、シートサイズがやや小さく、シートクッションの底突き感が気になった。また後席のシートバックに3段程度でもよいから角度調整機能が欲しいと思うのは私だけだろうか。
前後席の居住性、荷物の積載性などは全く不足なく、さらにうれしいのはリアシートのワンタッチ式の4:2:4分割可倒機能とフルフラット化だ。SUVオーナーにはスキーやスノーボード愛好家も多いはずで、かくいう私もスキーマニアだが、最近の短いカービングスキーをルーフ上に載せる人は非常に少ないにもかかわらず、それに対する配慮がされたクルマが意外に少ない。CX-5なら室内に4人分のスキーは十分入りそうだ。また後席からの前方視界が良好なのもいい。家族や仲間とのスキー旅行などにも最適だ。
つぎにうれしいのはサイドモニター、バックガイドモニターだ。サイドモニターの採用により、SUV特有の不細工なフロントフェンダーミラーが省かれているのはうれしが、それ以上に縦列駐車時にタイヤと舗道段差などとの距離が認識しやすく、高価なホイールに傷をつけることが避けられそうだ。今後この装置が広範囲な車種に採用されてゆくことを期待したい。また30km/h以上なら作動するというリアビークルモニタリングシステムも車線移行時に有効で、今回のクルマにはスマートシティーブレーキサポート、AT誤発進抑制制御とのパッケージでオプション装備されていたが、その効果を考えれば、78,750円という価格は非常にリーズナブルであり、是非ともおすすめしたい。
使い勝手の中で一言言及しておきたいのがドアミラーだ。このクルマは全幅が1,840mmとかなり広い上に、ミラーの端から端までの距離は全幅より320mm以上も広く、折りたたんでも全幅より70mm近く広いので、各ご家庭にある駐車場への出入りや、立体駐車場などへの駐車時には注意が必要であり、できるだけ早急に見直すべきだろう。
外観スタイルと内装デザイン
最後になったが、チーターをイメージしたという外観スタイルは存在感、躍動感あふれるもので、自然光のもとで見ると一層好感がもてる造形だ。ただしフロント周りのデザインならびに質感に関してはもう一踏ん張りしても良かったのではないか。これまでのマツダ車の大きな課題であった内装の質感はほぼ問題のないレベルにアップグレードされていると思うし、メーター、コントロール系の視認性、ステアリングホイールの握り感なども好感のもてるものになっている。総じて外観スタイル、内装デザインも十分に合格点が与えられる。