21、「今風化粧鏡 鬢かき」五渡亭国貞 文政6年頃
今回は、歌川国貞が描いた「今風化粧鏡」の2枚をご紹介する。最初の1枚は、唐人髷であろうか、横兵庫のような髷を結った女性である。着物の袖から白い二の腕を出して、両手で器用に鬢の部分を掻き上げている。なにか急いでいるのか、顔に緊張感が表れている。赤い唇に白い歯。お歯黒はしていないので、未婚。遊女か、それとも、下働きでもしている女性なのかもしれない。鬢を梳いて、その後、使っている赤い櫛を挿して出来上がり、といったところであろう。ただ、後ろ衿の部分に描かれているのは、着物なのか、肩に描けているものなのか、はっきりしない。何気ない日常の情景であろう。
22、「今風化粧鏡 笄さし」五渡亭国貞 文政6年頃
「今風化粧鏡」の2枚目である。大きな潰し島田に棒状の笄を挿そうとしているところである。笄は、長い髪を巻きつけるのが当初の役割で、それを笄髷と呼んだが、その後、島田髷やほかの髷でも笄を挿す場合も出てきた。装飾としても、用いられるようになったのである。この女性は遊女であろうか。麻地模様に松の葉のような羽根のついた鶴が袖口に描かれた下着を着ている。ボリュームのある髷と横に広がった鬢。歌麿の時代に流行った燈籠鬢を彷彿とさせる大きな鬢の形であるが、文政期は潰し島田や割り鹿子といった髪型が流行っていたのか、国貞が描く女性の髪には多く見られる。癖直しでもした後か、潰し島田に、笄を挿そうとしている。珍しい情景でもなく、見慣れた風景なのかもしれない。
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