女性のための媚薬を今、ドラッグストアに行って探そうと思っても、売られているのはバイアグラとかマムシ粉末とか男性ターゲットの品ばかりです。でも性意識が高かった江戸時代には、秘薬の店で堂々と女性用の強壮剤が売られていました。『秘薬秘具事典』(渡辺信一郎著/三樹書房)をひもといてみます。
有名なものは、オランダから輸入された「蝋丸(ろうがん)」と、国内で生産されていた「女悦丸(にょえつがん)」という媚薬。蝋丸は1600年代の文献にも登場していたとか。江戸末期の『文しなん』という書物には「長崎より来るものなり。ゆびにつけ玉門(ぼぼ)へさしこみて、くぢるべし」と使用法が記されています。オランダ人は性欲が強そうなのでオランダ伝来の薬も効き目がすごそうです。最初にかゆみが来る、というのがちょっと不安で勇気がいりますが......。
蝋丸に関しては
「頬かぶりして蝋丸を買ふ」という川柳が。両国には四つ目屋という有名な秘薬の店があり、性におおらかな江戸時代といえども買いに行くのは多少の恥ずかしさを伴ったようです。四つ目屋があった当時の両国米沢町は現在の東日本橋1丁目あたりですが、問屋とマンションが建ち並ぶ静かな街並で、淫靡な空気は全くなくなってしまいました。
「蝉丸を蝋丸とよむ四つ目の子」
その四つ目屋の子息が百人一首の「せみまる」を「ろうがん」と見間違えるという川柳です。不肖私も最初見たとき蝉丸だと読み間違い、蝉丸は毛髪がないので絶倫なのかと勝手に解釈して失礼しました。
「文字迄が白くもらした女悦丸」
と、看板の文字が体液か何かのように白く浮かび上がる様子を川柳に詠まれていた「女悦丸」は商品名もエロいです。使用法としては、
「是ハ水にてとき、まらにぬり付、つかふべし。よがることうたがいなし」(『女大楽宝開』より)
と、男性器に塗るようです。原材料は、人参、烏賊の甲、山椒、麝香、みょうばん、肉桂、柘榴、丁子など、いかにも効きそうですが
「玉門かゆくふくれあたたまり、女のひくわいの心しきりにし、男にいだき付、身もだへすることかぎりなし」
と、こちらもかゆくなるのが前兆現象です。
「腎力の及ばぬ所へ女悦丸」
「泣かずんば泣かせて見せう女悦丸」
など、女悦丸に関しての川柳は、ステマのようですが、使った人が手放しで賞賛したいくらい薬効があったのでしょう。
『祝言色女男思』という江戸時代の書物には、熟年夫婦が女悦丸らしきものを使う様子が描かれています。
亭主が薬を使うことを提案し、最初は気味悪がっていたけれど受け入れる妻。男性器に塗って挿入すると......
「アレサアレサ、どふもどふもどふも、それいくいくいくいく、アア、もし、お前の物が中一杯になって、はばッたいよふだよ。アアソレソレ、どふも息が弾んで口が利かれぬへ。ソレソレ又いくいく」
そして二人同時に気を遣り(絶頂に達し)、淫水がドクドク出て大洪水状態に......。
江戸時代のあえぎ声が「アレサアレサ」「どうもどうも」というのがカルチャーショックで、この奥さんは饒舌すぎるようですが、女悦丸の効き目がわかりやすく描写されています。しかし、かゆくなって、男性器が大きく膨らんだように感じる、というのはいろいろ混ざった液体を塗ったことでかぶれて腫れているのでは? という疑念も生じます。
他にも「黄菊の絞り汁」「蛤をつぶした汁」「銀杏をつぶした汁」などを性器に塗ると、性欲増進効果があるとのことです。こちらは現代でも簡単に手に入るので、江戸時代の先人たちからの後世へのありがたい知恵として、継承しても良いかもしれません。