第5回 江戸時代の子どもの遊び

 たまに道端で追いかけっこしたり遊んでいる子を見ると嬉しくなるくらい、外で遊んでいる子どもを目にしなくなりました。皆さん家にこもってゲームやスマホをやっているのでしょうか......。タブレットをあやつる幼児を見かけると時代の変化を感じます。私が子どもだった昭和の時代には、空き地で敷物を敷いておままごとをしたり、 ろう石で路上に絵を描いたものでしたが......と、遠い目になってしまいます。
 江戸時代には子どもたちの遊びの種類が豊富でした。まず代表的な女子の遊びは「ままごと」です。ままごとの「まま」は「飯」のことだそうで、炊事や食事のごっこ遊びで将来の予行演習をします。(あれほどおままごとをしたのに大人になって全然自炊していないことに気付きました......)
 いつの時代も女子力を高める、おままごとの川柳をご紹介します。
「まま事の亭主も客もぐわんぜなし」
「まま事のかかさんになるおちゃっぴい」
「まま事の世帯崩しも泣き別れ」
「まま事のけんくわ家財を没収され」
「がんぜない」というのは幼稚、あどけない、という意味だそうです。早熟な子がおままごとでお母さん役を志願したりしますが、やっぱり子どもで、喧嘩になっておもちゃを取り合ったり、決別したり、人生の縮図です。
「まま事は蜆貝にとうがらし」
当時の子どもは下着を付けていなかったようで......あられもない光景が。「蜆」「とうがらし」はそれぞれ女児、男児の性器を表します。
 かくれんぼ、目隠しなど、鬼が逃げ隠れる子を捕まえる遊びも盛んに行われていました。随筆『蜘蛛の糸巻』によると1787年頃、路上は、目隠しや鬼ごっこ、かくれんぼ、草履隠し、鬼ごっこをやる子どもたちであふれ返り、通行の妨げになるほどだったそうです。そんな時代に戻ってきてほしいです。鬼ごっこを子ども時代に充分にやり尽くすことが犯罪抑止力になるような気もします。
「かくれんぼ一寸ねむった立すがた」
「ためいきをすみっこへするかくれんぼ」
鬼が待っている間に眠くなったり、隠れている子が息を殺したり、かわいい姿が浮かびます。目隠しで遊ぶ子どもについての句はあまり残っていないようで、そのくらい日常にとけ込んでいた光景だったのでしょう。
 おはじきのことは「きさご」と呼ばれていました。
「ふり袖を舟にして行く勝ちきさご」
相手のおはじきに当てて勝ち取ったものを袖に入れる姿を綴った風流な句です。
「横に寝るきしゃごはじきは難所なり」
おはじきに没頭し、当たりにくそうな場所を狙うため寝た姿勢ではじく少女もいました。最近けん玉が再ブームですが、おはじきも改めておもしろさが再確認されたら流行るかもしれません。
 他にも、鬼ごっこの変形で一列に連なった子の最後尾を鬼が捕まえる「子をとろ子とろ」、鬼が見ていない間に隠す「草履隠し」などバラエティが豊富でした。
 そして「しなへ打ち」という遊びは、数人が手の甲を上にして重ね、おもむろに一番下の子が手を裏返して誰かの手を打つ、というもの。意外なことに「テラスハウス」の劇場版で男女が軽くイチャつく感じでやっているのを見て、どういうものかわかって良かったです。
 他にも今に伝わる遊びがあります。
「にらめっこ」 
「屁一ツで無勝負になるにらめくら」
いつの時代もおならネタは鉄板です。
「人形遊び」
「はだか人形美しい嫁ざかり」
人形に服を着せたら見栄えが良くなった姿を描いています。
 そして、女子の遊びといえば「折紙」「あやとり」です。当時の女子の教訓についての本『女用教訓絵本花の宴』によると、折紙は熨斗や手紙など紙の折り方が必要な礼法の練習ために普及したそうです。折紙を発明した人、すごいです。日本人に器用さの原点がここに......。
「折鶴は玉子の時が四角なり」
言われてみれば、頭と尻尾を出す前は箱状でした。
「折鶴の開眼口でひとつふき」
最後に空気を入れて完成です。
「ちり紙で家鴨など折る村の嫁」
ちり紙だとシュッとした鶴にならず、鴨になってしまい残念です。
 あやとりは、文化年間(1804~1818年)に流行ったけれど、嘉永(1848~1854年)にはすたれ気味だったとか。
「綾取りで錦の帯の橋を掛け」
「綾取りでよく織り上げたかきつばた」
 あやとりで橋や花を作る様子が趣あります。ふと、現代の遊びを川柳にしたらどうなるのかと思ったのですが、「ツムツムで......」「アイカツの......」と、風流さのかけらもない句になってしまいそうです。江戸時代の遊び、大人になってからやったらもう遅いでしょうか......。

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