第4回 江戸時代の下半身の薬とは・・・・・・

 性愛文化が発展していた江戸時代。今でいうバイアグラ的な強壮剤もさかんに開発されていました。「秘薬秘具事典」(三樹書房/ 渡辺信一郎著)には、さまざまな秘薬が収録されています。今回はそちらから、男性向けの内服薬を川柳とともに紹介したいと思います。
 内服薬として筆頭に挙げられるのが膃肭臍(オットセイ)です。オットセイはアシカやトドより名前の語感や字面からしてエロい印象。戦国時代には徳川家康も服用し、強壮パワーで天下統一&子孫繁栄を成し遂げたくらい強力な薬です。江戸時代にはこのオットセイの外腎と臍を切り取って薬用としていました。陰茎や睾丸を乾燥させることも。オットセイは、一頭が数百頭のメスをはべらせていることもあるそうで、「腎張り」の象徴として男性の夢を体現していました。「腎張り」とは多淫で絶倫という意味で、その逆の虚弱な人を腎虚と言いました。漢方薬局でたまに目にする単語です。
「腎張りはおっとせいほど連れ歩き」という直球な内容の川柳が残っています。オットセイと漢方を混ぜて作った「一粒金丹」は、10日~15日置きに一粒飲むことで効果を発揮したそうで、一錠1500円のバイアグラよりもかなり安上がりです。
 「サンショウウオ」「オオサンショウウオ」も強精薬として使われました。体を半分に切ると自力で再生し元通りになる生命力の強さから、精力アップ効果が期待されていました。食べると高まって鼻血が出てくることもあるとか。今は絶滅の危機も囁かれているサンショウウオ。日本男児の精力の象徴だと思うと、国家の未来が心配です。
 いっぽう植物性の強壮薬もありました。「黄精」は野草のエミグサ、ナルコユリの根や苗を煎じて服用するもの。エミグサは今はボタンヅルと呼ばれ、ナルコユリは普通にガーデニングが好きな人が育てていたりするようです。
「切見世へ黄精売りは引き込まれ」という川柳があります。
 切見世は「ちょんの間」的な、簡易な売春宿。行商の男性が、ふらふらと娼婦のもとへ引き寄せられる様子が描かれています。美容と健康に効く「黄精」は娼婦にとっても人気商品だったようです。
 そして誰よりも「黄精」を活用していたと思われるのが小林一茶でした。一茶というとカエルやスズメが出てくる牧歌的な句を詠んだ、いい具合に枯れている男性というイメージがありますが、五十二歳でやっと結婚してからは激しい夜の夫婦生活を送っていたようです。一晩三回とか五回という日も......。五十代でこの絶倫ぶりを可能にしたのは「黄精」の薬効。妻が妊娠中も、自身が脳卒中で半身不随になっても、彼の性欲は尽きることがありませんでした......。
 化学的に合成された薬よりも、自然由来のものの方が効果が長く持続するのかもしれません。とはいえオットセイやサンショウウオを捕まえるのは現代においてはほぼ不可能ですか......。やはり江戸時代は恵まれた性生活だったと先祖に思いを馳せずにはいられません。

20150127edojosi4.jpg