第2回 「娘日時計 午ノ刻」喜多川歌麿/「浴後美人図」歌川国芳

 今回は、いずれも江戸時代の女性が入浴した後の様子である。湯上りの姿は、緊張感もなく、無防備で女性らしさがよく出ている。当時、どのようなものを使って洗顔などをしていたのか、見てみよう。

3、「娘日時計 午ノ刻」喜多川歌麿 寛政6年~寛政7年頃 (太田記念美術館蔵)
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 右手に持った手拭で、襟足を拭いている女性と、右で手拭を絞っている女性、いずれも湯上りである。左の貝髷に赤い格子模様の着物を着ている女性は中着、下着にも黒襟を付け、三枚重ねにしている。左腕に持っているのは麻地模様の浴衣で、今のバスタオルのように、湯上りに使用した。また、右の女性は、燈籠鬢に大きな勝山髷を結っている。鬢のところを紐で括っているのは、お風呂に入っても燈籠鬢が崩れないようにしたもの。前髪のところに櫛や簪を挿しているので、湯上りだということが分かる。口に銜えているのは、糠袋で、石鹸のない時代、糠が石鹸代わりだった。自宅でも使ったが、お風呂屋にも糠は売っていたので、袋だけ持っていけばよかった。春信や歌麿、英泉、国貞などが描いた美人画などにも、この糠袋を手拭の先に括り付けた様子が描かれている。この糠袋を一名紅葉袋(もみじぶくろ)ともいった。糠は1回限りで、使ったあとは捨てたのである。糠の酸価(油脂の斎整よび変質の指標となる数値)が増加することに関係があり、肌膚に良かったものが、次の日には成分が変化して、肌膚を荒らすとこともあったらしい。
 浮世絵の中には、お風呂屋で糠を捨てている様子が描かれたものもある。肌膚をきれいにすることも江戸時代の女性にとっては、大事なことで、いかに自分を美しく見せるかは、糠袋にかかっていたのかもしれない。

4、「浴後美人図」歌川国芳 弘化~嘉永頃 (太田記念美術館蔵)
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 肌膚の白さが際立っている。風呂上り直後であろう。藍一色の大きな蛤が描かれた浴衣を左の肩にひっかけ、今にも落ちそうな様子である。顔も白く描かれているが、たぶん湯気などで上気しているところに、風をうけているところかもしれない。島田髷に結った髪のほつれが色っぽく、額の生え際や襟足の髪がまだ濡れているのであろう。白い腕や胸、腹部のふくらみには弾力があり、若さと、あやうい色っぽさで溢れている。
 縁側なのであろう。夏の風物詩の釣忍に燕がとまっている。縁側と背景の色が同じに描かれているが、肌膚の白さを演出するには効果的で、ちらっと見えている下着の赤が印象的である。


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