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2024年2月26日

第43回JAIA輸入車試乗会が開催されました。試乗車5台のレポートをお伝えします。(レポート:片山光夫)

今年も日本自動車輸入組合(JAIA)が主催する輸入車の試乗会に参加した。今回の試乗車は17社からのべ67台が提供され、自動車に興味を持つ者にとっては貴重な体験が得られる機会となる。近年は特に電気自動車が増え、純粋なエンジン車は指折り数えるほどになってしまった。モーター駆動、あるいはエンジンにモーターが補助的に使われる場合、非常に強力かつスムーズな加速力が得られるため、エンジンチューニングの焦点は排気ガスの公害対策が主となる。
電動化によって振動、加速とギアチェンジの問題がほとんど解消された電気自動車は、安全性と運転者向けのアメニティが集客のポイントになっていると感じる。短時間の試乗では、安全性やデジタル機器によるアメニティをくまなく試すことは不可能であるが、ハンドリング、乗り心地、ブレーキングなどは自動車として基本的に重要な要素であり、今回は主にこれらを評価した。
近年は電動化による意外なデメリットも見出されており、米国では格段に重くなった車重により、タイヤの減り方が過去の倍近くなったという報道がされ、より軽量で安全な電池技術の開発が望まれる。

1)ASF2.0

ASFは2020年に創立された電気駆動の商用軽自動車を企画販売する日本の会社で、「and」「smart」「future」のそれぞれの頭文字をとってASFとなった。今回試乗に提供されたのは2023年5月に販売が開始されたASF2.0というモデルで、軽自動車サイズの電気駆動による商用車である。
ASFは資本金が20億円を超える新興中企業で、すでに国内の大手宅配会社や大手ドラッグストアにこのモデル数百台をリースすることが決まっているとのことで早速試乗した。ASFの製品は今のところ全て中国に発注して買い付けており、これにより輸入自動車である。
全長約3.4m、全幅約1.48m、全高約1.95mは軽自動車規格の範囲で、リヤに置かれたモーターが後輪を駆動するRRタイプとなっている。ネットに掲示された情報では320V、30kWhのリン酸鉄リチウムイオン電池を床下に積み、普通充電器1回(6~7時間)の充電で(メーカー推定値)約209km走行可能としている。
座席は2座席で、必要最小限の大きさとなっており、操作パネルも極めてスパルタン、装飾的なものは何もない。マックファーソン式独立懸架サスペンションに支えられた12インチの前輪は、電動アシストのラックアンドピニオンで操舵され、前輪には小さなディスクブレーキが付けられている(後輪はマルチリンクのリジッドでドラム式ブレーキ)。タイヤサイズは145R12LT 8PR(前後)で、1130kgのボディーを最大約70Km/hのスピードまで駆動する。実際に乗って見ると、約70km/hが限界のようで、高速道路での使用は限定されるだろう。ただこのスピードだと方向安定性がやや悪く、さらなるチューニングが必要と思われる。またボディー各部のチリ合わせは国産車ほど緻密ではないが、商用車としてはギリギリ許容範囲内と思われる。因みに走行中に顕著な振動やノイズも感じられなかった。
電気駆動の自動車製造技術は中国で急速に進んでおり、このような特殊用途の電気自動車を製造コストの安い中国から買い付けることは合理性があり、ASFの狙いは間違ってはいない。また仕様書によると安全関連装備は日本製の軽自動車とほぼ同等(衝突被害軽減ブレーキ、障害物警報機能、車線逸脱警報、坂道発進サポート等)に設けられているとのことで、抜かりはなさそうである。あとは実際に稼働してどのような実績が出るか待つ必要がある。この車は基本的に複数台でリースされるため、販売希望価格は表示されていなかった。

2)BYDドルフィン

BYDは「Build Your Dreams」の頭文字を取ってBYDとした中国の大手電気自動車メーカーである。その販売規模は世界トップクラスで、日本の電気バスのシェアは既に1位であるという。日本には2005年に会社を設立し、2015年から国内に電気バスを納入するなどe-mobilityを主体に事業を展開している。2022年にBYD Auto Japanを設立して乗用車事業に本腰を入れ始めた。現在BYD Attoと呼ばれる中型車とその下のサイズのドルフィンを販売しており、2024年4月にはSealと呼ばれるやや大きな乗用車を発売する予定である。
今回試乗したのは新型のドルフィンで、BYDモデルの中では最も小型のコンパクトEVである。全長約4.29m、全幅約1.71m、全高約1.55m、ホイールベースが約2.7mと市街地で走りやすいサイズである。
ドイツ人デザイナーの手による意匠は現代的なコンパクトで、滑らかな形状から「ドルフィン=イルカ」を連想させる。バッテリー容量の違いで標準グレードと長距離グレードの2つがあり、ブレードバッテリーと呼ばれるBYDが特許を持つ強靭な燐酸リチウムのバッテリーが床下に装荷され、前者は44.9kWh、後者は58.6kWhの容量で、それぞれ400kmと476kmの航続距離である。重量も1.52トンと1.68トンと電気自動車としては比較的軽い。
ドルフィンはその名の通り、内装も水色と淡いベージュの水中を連想させるトーンの優しい色合いでまとめられていた。実際に乗って見ると電気自動車に求められる静粛性、加速、乗り心地などが過不足なく与えられており、癖もない素直な操縦性である。標準的な走行安全装置やアメニティなども装備されており、これでメーカー希望価格が標準グレード363万円と長距離グレード407万円で、CEV補助金や免税措置などで約70万円が引かれるとなると、かなりのお買い得である。このクルマがあと5年10年と使われてどのような評価になるのかは未知数だが、世界標準として認知されるのは時間の問題だろう。

3)Alfa Romeo Tonale PHEV Q4 Veloce

Alfa Romeo Tonale は日本では中型サイズのSUVとして売られている。イタリア語で「Tonale」 は「変身」という意味があり、確かにAlfa RomeoがPHVのSUVを出すのは、大変身であると感じた。
全長4.53m、全幅1.835m、ホイールベース2.635mの寸法はあまり大きくないが、重量が1.9t近くあり、かなり重いクラスに入る。外観はフロントグリル周りに昔ながらのアルファロメオの盾の面影を残しており、少し先祖返りした感がある。エンジンはターボ付きの4気筒1.33L で、これに2つのモーターとバッテリーが付き、燃費はWLTCモードで16.7㎞/Lと公表されている。内装はシンプルで操作性も複雑ではなく、初めて試乗しても困ることはなかった。座席は昔のアルファロメオの“タイトな感覚”を期待して座ると裏切られるベンチシート状のもので、横のサポートも少ない。
重量が重い割にはきびきびと走るが、この重さではタイヤの摩耗が進むだろうと気になる。各種のカメラや安全装置などは抜かりなく装備されており、実際に使用する機会はなかったが、現在の基準に併せている。値段はこれにより約760万円となっており、これが高いのか安いのかは、にわかに判断できない。筆者は1960年代のイタリアンスポーツカーの黄金期を知る一人で、その60年後にアルファロメオのSUVを評価するのは複雑な気持ちである。何が何でもアルファ、という向きにはお勧めであろうか。

4) Renault Lutecia E-tech engineered

ルノールーテシアは発売以来、その身軽なスポーツ性を評価されていたが、これに補助モーターを2台付けたハイブリッド版がE-tech engineeredである。
エンジンは直列4気筒1.6Lの自然吸気エンジンで、これにリチウムイオン電池で駆動される約20馬力の補助モーターが2台装備される。全長約4.08m、全幅1.725m、全高1.47mのボディーに2.585mのホイールベースはやや小型であるが重量も1.31tと軽く、これにより取り回しも良く燃費もWLTCモードで25km/Lを超える。
実際に走って見ると、ロードノイズがやや高く、乗り心地は硬めだがステアリングに癖はなく、スポーティーに良く走る印象を受けた。欧州では当初不人気だったHVもこのところ見直されてきたようで、電気一辺倒だった欧州のトレンドも複雑になってきた。元から備えるスポーティーさと、ハイブリッドによる燃費向上のうえに価格は370万円に設定されており、日本でも顧客を引き付ける可能性は高いと思われる。

5)Abarth 500e Turismo Cabriolet

アバルト500の初の完全電動車である。アバルトの名は元々マフラーメーカーから来ているのだが、電気自動車にマフラーはない。しかし、今回の試乗車はエンジンの擬音を出す凝った作りが売りである。電気自動車にしては分かりやすいインスツルメントパネルにあるスイッチを押すとかなり大きなエンジン音が鳴り響くが、空スロットルを吹かすわけにもゆかず変な気持ちになる。アクセルを踏むと小気味よくスタートするのはエンジン車と同じ。乗り心地は硬めで、前席の居住性は悪くないが、4人乗りであるものの後席はかなり狭く、2人乗りと割り切った方が良い。各種の走行安全装置などはもれなく装備されているが、短い試乗では評価はできなかった。
寸法は全長約3.67m、全幅約1.68m、全高約1.52mでホイールベース2.32m、重量約1.36トンのボディーを最大114kWのモーターで前輪を駆動する。バッテリーは総電力42kWhのリチウムイオン電池で、航続距離はカブリオレモデルで約290kmである。気になる価格は650万円で、これに最大85万円の国と地方自治体の補助が付くため、実質465万円程度となる。同クラスの国産車と比べるとかなり割高であるが、これでアバルトに乗れるならば顧客はつくかもしれない。

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