2019年5月2日
商品改良を行ったアウディTTシリーズが発表されました。その様子をお伝えします。(レポート:相原俊樹)
4月24日、アウディ ジャパン(株)は建築家 安藤 忠雄氏の設計によるAudi世田谷にて、商品改良を行ったアウディTTシリーズ(以下、TTと記す)を5月9日より順次販売すると発表した。
TTクーペ40TFSI、 TTクーペ/TTロードスター45TFSI クワトロ、そしてTTSクーペの4種が日本市場に導入される。さらにRSモデルも今年第4四半期に追加になるという。このなかではFWDのエントリーモデル、TTクーペ 40TFSIのエンジンが2リッターになり最高出力・最大トルクが従来比+17ps/+70Nmの197ps/320Nmへと上がっているのがトピックだ。
ところで今年は初代TTが日本市場に導入されてから20年目の節目の年となる。これを記念して世界限定999台のTT 20 yearsが会場にて披露された。日本には20台が確保されている。以下、写真を使いながら、TT 20 yearsを紹介していこう。
この日、壇上に立ったアウディ ジャパン代表取締役社長のフィリップ・ノアック氏からは、TTの車両説明に加えて、TTの歴史、デザイン、そしてドイツの造形芸術学校バウハスとの関連性という3点について解説があった。それは私がかねて抱いていた疑問を解決してくれる、聞き応えのある解説だった。
「なぜTTは2輪レースの名称を冠するのか」、「なぜTTのデザインは”バウハウス的”と呼ばれるのか」――TTのみならず、広く自動車のデザインに関心を寄せる愛好家諸氏とっても興味のあるテーマに思われるので、当日の解説と、私がその後調べて判明した情報を交えて紹介しよう。
モデル名TTの由来を語るノアック氏の話は一気に1938年に遡る。この年、当時世界最大のモーターサイクルメーカーだったDKW(デー・カー・ヴェー)は、ULD 250というレース専用のマシンで、かのマン島TT(ツーリスト・トロフィー)レースの250cc ライトウェイトクラスに優勝している。「これを契機にアウディはスポーティモデルにTTと名づけるようになりました」。氏のこの言葉で私の第1の疑問は氷解した。
DKW、ホルヒ、アウディ、ヴァンダラーの4社が統合されて1932年にアウトウニオンが設立されこと、そしてアウトウニオンが現在のアウディの前身であることはご存じの通りだ。
ちなみにノアック氏の話に出たDKW ULD 250は、水冷2ストロークの2気筒を搭載していた。しかもこのエンジン、クランクシャフトから取り出した動力を専用コンロッドがポンプに伝え、そのポンプが過給する一種のスーパーチャージドエンジンなのだった。
その後、1959~1963年にかけてNSU(エヌ・エス・ウー。後にアウトウニオンに吸収される)もTTレースに由来するNSU クイックリー TTというモペッド(=軽便二輪車)を販売している。
そのNSUは1963 年のフランクフルトショーにてプリンツ1000 という軽快な2ドアサルーンを発表。同時に1.1リッターエンジンを積んだスポーティなNSU 1000 TTが登場する。空冷OHCの活発なエンジンを積んだTTは好評を博し、NSU 1200 TT、さらには NSU 1200 TTSへと発展していく。NSU 1000 TTは現在のアウディTTの遠い祖先と言えるだろう。
ヨーロッパの自動車メーカーが歴史を語るとき、必ずと言っていいほど使われるのが「ヘリテイジ(=歴史・遺産)」という言葉だ。ノアック氏もヘリテイジはTTの重要な要素だと強調する。その彼の右手側には素晴らしい状態の初代TTが置かれていた。私はアウディが新車当時から大切に保管していた個体かと思っていたが、そうではなかった。
「私たちが市場に流通している個体を買い戻して、このコンディションに戻しました。初代TTがヨーロッパで登場したのは1998年に遡りますが、いまでもパーツの93%が手に入ります」とノアック氏は誇らしげに明かす。
この日展示されていた初代TTは、アウディがいかに過去のモデルを大切にしているかを示す好例だろう。私はこれまでアウディは、革新的テクノロジーを主眼に置く未来志向のブランドだと思っていた。確かにそれは同社が目指す1つの方向ではあろうが、その一方で、歴史とヘリテイジを大切にするブランドでもあると認識を新たにした。
ここでノアック氏からバトンタッチして柏木 博氏がプレゼンターとして登壇した。柏木氏はデザイン評論家にして武蔵野美術大学名誉教授。そしてバウハウス100周年委員会委員でもある。
「バウハウスとは1919~1933年という短い期間に存在した学校で、当初は画家ワシリー・カンディンスキーなどが教師を務める美術学校でした」と氏は語る。バウハウスの教師陣が試みた授業はユニークで、現代の造形教育の土台となり、そこから優れたデザイナーや建築家が育った。さらには時代を切り開くデザインのプロダクトやグラフィックスが生まれた。
現代の自動車のデザインについて、氏は「フォルムが崩れていて、クルマとしての形が掴めない」ものが多いと辛口の論評を加える。その点、初代TTは一目で形がわかる。どこでコンパスを使ったのか、どこで直線を強調したいのかが明快なのだという。どうやらこの辺りにTTのデザインがバウハウス的だと言われる由縁がありそうだ。私の第2の疑問もこれで解けた。
なお、バウハウス創立100周年に当たる今年は、『開校100年 きたれ バウハウス――造形教育の基礎――』を始めとするバウハウスに関する様々なイベントが開催され、アウディジャパンが一連のプロジェクトをサポートしている。興味のある向きは本稿の末尾に公式ウェブサイトのURLを記したので、ご覧いただきたい。