2019年3月20日
新型リーフに試乗しました。その様子②をお届けします。(レポート:武川明)
新型リーフ(e+)試乗記②
バッテリーの熱対策、劣化抑制のマネジメント技術は着実に進歩した
前回のリーフ(e+)試乗記①の最後に、次回はバッテリー(マネジメント)が如何に進化したかについて取り上げる旨の予告をした。初代リーフの24kwhという容量とこれに基づく一充電航続可能距離から見れば、今回、登場したe+の62kwhというという容量と航続可能距離はけた違いの進化に思える。
ほぼ同じスペースにこれだけのビッグサイズバッテリー(リチウムイオン電池)を押し込んだのだから、メリットだけでなくデメリットもあるのではないかと率直な疑問を抱かざるを得なかったと書いた。デメリットの最大のものは熱(問題、対策)と劣化(の早期進行)への懸念と不安である。
その懸念と不安に対して試乗会の際に行なわれた技術説明会と懇談会ではなるほど、と思える回答を複数提示していただいた。
まず、「ハーネスの基盤化とレーザー溶接の採用」について。バッテリー搭載セル数は40kwh容量リーフの192に対し62kwhのe+では約1.5倍の288セルを搭載している。この1.5倍のセルを同じスペースに詰め込んだのである。そのマジックを一言でいうと、セルモジュールの”フレキシブル化”である。40kwhのセルモジュールは8セルを1単位としたもので、これを変えることはできなかった。これに対しe+では自由にセル数を設定できるようになった。これを可能としたのが「ハーネスの基盤化、レーザーで接合」という新技術である。言葉で説明することは難しいが、技術説明書に載せられた簡易図を見ればご理解いただけるかもしれない。図の通りこれまではセル及びセルモジュール間をコネクトするのに平型のハーネスを用いていたのに対し、e+の新型モジュールでは「ハーネスを基盤化し、レーザーで接合」している。その結果、セルモジュールを8セル単位にこだわらず、搭載部位に応じて最適な高さ(モジュール数)に設定できるようになった。これにより、総セル数を1.5倍に拡大できたわけだ。
回りくどくなってしまったが、この新技術が熱対策にも効果を発揮しているのだ。どういうことかというと、これは電気工学の基礎の基礎ともいえるが、熱は抵抗により発生し、抵抗が大きくなればそれだけ熱も高くなる。電気の通り道であるセル間を結ぶハーネスが長ければ、それだけ抵抗が大きくなり発熱も大きくなる。それを今回はレーザー接合という形で抑えることができた。すなわちハーネスを基盤化することにより電気の通り道が短くなったわけだ。当然、抵抗も減り熱も発生しにくくなる。これが新型リーフe+の容量拡大にともなう熱対策の一つのからくりである。
もう一つの新たな試みは「セルの3並列化」だ。これまでのリーフはセルを2並列で制御していた。すなわち40kwhリーフでは192セルを96セル2系統(並列)で電流を流していた。これに対し、e+では288セルを3系統(並列)化している。もちろんこの第一の目的はパワートレインの高出力化である。バッテリーからインバーターに流れる電流を3並列化により大幅にアップ、インバーターに供給する。インバーター側もこれを受けて性能を大幅に向上され、あわせて大電流を緻密に制御することで、出力を大幅に高めることができた。最大出力が45%向上し、80から120km/hへの中間加速も13%アップしたのもこの恩恵によるものだ。しかもこの3系列化はバッテリーの熱対策にも効いてくる。特に急速充電の際、充電時間が短くでき、熱の発生も抑えられる。わかりやすく言えば、ふろおけに水を入れる際、2本のホースで入れるよりも3本のホースで入れたほうが、1.5倍迅速(スムーズ)に入る。したがって熱の発生も抑制できるし、充電の際の出力抑制も極力しないですむ。前回、触れたような40kwhリーフの夏場の高温環境下における出力コントロール(抑制)も解消できたのではないかと想像する。
バッテリーの熱問題といえば、夏の高温時だけではない。実はリチウムイオンバッテリーは寒冷時の低温環境も苦手とする。実際、わが初代リーフは夏よりも冬が厳しい。春から秋にかけては、15分もあれば完了する充電(30%→80%)が冬期は30分でも終わらない。実走行距離もかなり短くなる。インパネの航続可能距離や残存電力量の%表示が見るみる減少し、冬の長距離ドライブではいつも肝を冷やしている。そうした経験をしているだけに、寒冷時の問題について試乗会の際、説明員に質問してみたのだが、こうしたクレーム(充電に時間がかかる、走行距離が短くなる)は2代目リーフ以降ではほとんど聞かれなくなったという。大容量化で余裕が生まれたこともあるだろうが、熱コントロール(高低とも)は初代リーフに比べ高度化しているとみていいだろう。
2015年秋に開かれた東京モーターショー会場で初代リーフ開発責任者の門田英稔さんと懇談する機会があった(現在、門田さんは中国市場でのEV化推進の責任者として活躍しているようだ)。
この時はバッテリー搭載容量を30kmhに拡大したモデルの発売(12月24日)直前で、同モデルはモーターショーにおける日産の目玉でもあった。門田さんはバッテリーの耐久性向上を盛んに強調していた。実際、従来の5年8万キロのバッテリー保証を10年16万キロへと拡大したことを30kwhリーフの訴求ポイントとして日産は大きくアピールしていた。門田さんはそれに加え、従来推奨されていた80%充電(充電は80%までにとどめたほうが電池のためにはよい=劣化を遅らせることができる)を今後は強調しなくても大丈夫といった趣旨のことを話してくれた。電池マネジメントの高度化がこうしたことを可能にしたということだった。
とはいえ、前回も書いたように30kwhリーフの劣化速度のカーブの傾き(リーフスパイという米国生まれのシェアウエアではSOHとかGIDsと呼ばれる数値で示される)が従来の24kwhリーフよりも大きいのではないかと米国から指摘され、日本のリーフオーナーの一部がざわついたことがある。そのことを今回、試乗後の懇談会で尋ねてみると、この件は否定もせず、バッテリーのマネジメントは初代発売以来、試行錯誤しながら日々高度化を進めている、(30kwhの件は)高い負荷をかけるようなマネジメントにトライしたことも要因、といった回答をいただいた(上記はあくまでも筆者の受け取り方で、正確な言葉の反映ではない。筆者の誤解が無いとは限らない)。
日産の電気自動車の開発の歴史は長い。極端なことを言えば1947年のたま電気自動車にさかのぼることができる。そこまでいかなくてもリーフの10年前、2000年に発売されたハイパーミニがある。そしてリーフは初代発売から8年。累計販売台数は国内で11万8000台、グローバルでは36万台に達する。これだけの純電気自動車(EV)の販売台数を持つメーカーはテスラを除いてない。そしてこのノウハウは日産自動車の中に着実にい蓄積されているわけで、これから日本や中国でEVを本格投入しようとしている国内の自動車メーカーの一歩も二歩も先を行っているといえよう。よくEVは機構がシンプルで作るのは容易という声も聞かれるが、実際にユーザーの納得を得られるクルマに熟成するには決して短くない時間と販売実績が必要といえるわけで、その結実が今回のe+といってもいいだろう。もちろん、最終ゴールではなく、通過点に過ぎないが。
(武川明)