2019年2月14日
第39回JAIA(日本自動車輸入組合)試乗会に参加しました。その様子をお伝えします。(レポート:相原俊樹)
幸いにも前日降り続いた雨が止み、2月初旬のこの日はまずまずの好天に恵まれた。湘南のおだやかな海沿いの道を、私はフランス製のSUVをゆったりと走らせている。2019年JAIA輸入車試乗会の幕開けだ。
最初に乗ったのはDS7クロスバック。今、私はこれをSUV(スポーツユーティリティビークル)と申し上げたが、乗ってみるとことさらスポーティな感じはない。むしろダンパーのよく効いた重厚な乗り心地がこのクルマの持ち味だと思う。直進安定性はすこぶる良好、それこそ地の果てまで走れそうなところはフランス車伝統の美点だろう。この日の試乗車は「so Chic BlueHDi」というモデルで、2Lのディーゼルを搭載していたのだが、うかつにも私は最後までガソリンだと思っていた。それほどスムーズで静粛、長距離クルーザーに打ってつけのエンジンだ。
試乗ではコーナーの連続する狭い農道も走ったが、さすがにこうした舞台では1895mmの車幅が私の手には余った。やはりこのクルマには道幅が広くて、緩やかな中速コーナーが続く舞台が似合っている。
試乗を終えた私は、1970年に登場したシトロエンSMを思い出した。当時同社が提携していたマセラティのV 6 DOHCエンジンを搭載した豪華なGTである。高速道路を習慣的に使い、市街路でもボディの外寸を苦にしないユーザー諸氏にとって、DS7クロスバックは理想的なグランツアラーだと思う。
アウディS3スポーツバックは爽快な1台だった。特に屈曲路での運転が楽しい。アクセルの踏み加減一つで乗り手の思うままに加減速が効き、操舵力が適切なハンドルを切ると、間髪を入れず狙った通りにカーブを回れる。限界的なコーナリングに挑める腕も、そのつもりもない平均的なドライバーである私でも、S3スポーツバックが乗り手のスポーツ心を鼓舞するクルマなのはわかる。
左のシフトパドルを引けば瞬時にシフトダウンして、期待通りのエンジンブレーキと加速が効く。これが気持ちいい。クワトロシステムはEDB(エレクトロニックディファレンシャルロックシステム)を採用して、前輪と後輪に適切な駆動力を配分するという。そうした高度な機構に助けられているのだろうが、乗り手にはスッと向きを変える軽快なステップワークが心地よく、まるで自分の運転が巧くなったような気になる。
ボディのサイズもしっくり来る。1785mmのコンパクトな車幅は、Cセグメントでも1.8mが主流になった感のある現在、貴重だ。たかが15mm、されど15mm。適度な室内空間と、高い機動性を両立したS3スポーツバックは、私にさわやかな印象を残した。
MINIジョンクーパーワークス・クラブマン(以下、JCWクラブマンと記す)の運転席に座った瞬間、私は「オッ」と声を出した。室内の造作が素晴らしく緻密で、高級感に溢れていたからだ。もともとBMWミニはデビュー当時から高い品質が特徴だったが、最新型では一層磨きがかかった感がある。シート位置を合わせて前方を見ると左右のフェンダーの峰が視界に入り、車幅感覚を捉えるのに絶好なのもMINIの美点だ。
試乗拠点から自動車専用道路に入り、そこから市街路、そして狭い屈曲路と走ったが、一貫してタイヤが発するロードノイズと少なからぬショックが気になる。JCWはスポーティな走りが「売り」だから、これは歯切れのいいハンドリングを得るための避けられない代償なのかもしれない。しかしJCWクラブマンは4ドアの5人乗り。家族全員を乗せてドライブに出かけるには、この乗り心地はやや厳しいと感じた。
前方視界が限られていることもお伝えしよう。フロントガラスは天地方向の丈が短く、しかも中央に室内リヤミラーがデンと構えているので、特に見通しの悪い左コーナーに進入する際は気を遣った。そのリヤミラーにはクラブマン独特の観音開きテールゲートのセンターピラーが映りこむ。
BMW MINIは独自の魅力に富んだクルマだ。もはや「ミニ」とは呼びにくいサイズに成長した現代のMINIだが、個性的なデザインとキビキビした走りは健在。これに魅せられた人にとっては、些細な欠点も「個性」に映る。ほかには代えがたい1台である。
JAIA輸入車試乗会は来年で40周年の節目を迎える。私のようなフリーランスライターにとって、普段乗ることのできない輸入車に試乗できる希有な機会となっている。この意義深いイベントが、今後も長期安定的に開催されることを祈って止まない。